スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理五七&精神の眼は論証そのもの

2016-04-05 19:15:59 | 哲学
 第三部諸感情の定義二八の高慢superbiaという感情affectusを,スピノザは狂気の一種と考えました。その狂気の一端は,第四部定理五七において示されているといえます。
 「高慢な人間は追従の徒あるいは阿諛の徒の現在することを愛し,反対に寛仁の人の現在することを憎む」。
 高慢な人間は自己への愛amorのために自分を正当以上に感じるのですから,そのように感じさせてくれる人間,すなわち阿諛追従の徒を好むのはきわめて自然といえるでしょう。一方,ここで寛仁generositasの人といわれているのは,高慢な人間を正当以上には評価せず,正当に評価する人のことです。それは高慢な人間にとっては自分が高慢であることができることの否定です。したがって高慢な人間は寛仁の人が存在することを憎むのです。
 この定理Propositioは高慢な人間の一特質について示しているといえます。ですが同時に,スピノザが高慢な人物とみなしているのがどういう人間であるのかということを僕たちに教えてくれる定理であるともいえます。たとえば愛は第三部諸感情の定義六に示されますが,愛の一特質である第三部定理二一のような感情の模倣affectum imitatioが,僕たちに愛を教えてくれるようにです。
 自分と信念を共有し,自分を支持する人だけで周囲を固める政治家とか政治的権力者は現実に存在するといえます。あるいは重役にイエスマンだけ配する企業経営者というのも現実的に存在するといえるでしょう。スピノザはそういった人間のことを,阿諛追従の徒を好む高慢な人間であるとみなし,こういう人間は狂気の一種に取りつかれているのだといっているのです。
 このようにみれば,政治的独裁者が粛清を行ったり,ワンマン経営者が役員を解職したりすることがまま生じる理由もよく分かるのではないかと思います。高慢な人間からみて,ある人物が阿諛追従の徒から寛仁の人に変化したとみられたら,その人間は排除するべき人間になるからです。

 数学の例で示した僕の精神mensのうちで起こる思惟作用と,第一部定理一一第三の証明によって僕の精神のうちに生じる思惟作用は,構造的には完全に一致しているといえるでしょう。数学の例は実在的有を対象としていないのですから,僕はそれを身体の目で感覚しているということはあり得ません。そうであるなら,神Deusの実在の場合も,僕は精神の眼で神の実在を感じているということになるのだろうと思うのです。とりわけそれらが僕にとって論証Demonstratioそのものになるのですから,第五部定理二三備考でスピノザが述べていることと,僕の精神の中で生じることとは,整合性がとれるように僕には思えます。
 よって僕はこれが第三種の認識cognitio tertii generis,僕自身が経験している第三種の認識であると考えているのです。するとスピノザが当の備考Scholiumでいっているのは,やはり人間の精神は,第二種の認識cognitio secundi generisを基礎とした推論によって論証された事柄について,それを直観知scientia intuitivaによって,すなわち第三種の認識によって感じることができる,認識することができるということなのだろうと考えます。つまりそこでスピノザが具体的にいっているのは,第五部定理二三で,人間の精神は身体corpusと共に完全には破壊されないということが推論によって論証されるのだから,人間は自分の精神が永遠aeterunusであるということを第三種の認識によって感じたり経験したりすることができるということだろうと解釈するのです。
 このように解釈すると,この備考では第二種の認識と第三種の認識との間の橋渡しがされているといえるでしょう。第二部定理四一とか第二部定理四二は,明らかに第二種の認識と第三種の認識との間には何らかの橋を架けることができるけれども,それらと第一種の認識cognitio primi generisとの間にある谷には橋を架けることができないということを暗示しているように思えますが,そこに架けることができる橋がどういう橋であるのかということが,この備考で示されているということになります。
                                    
 こうしたことを対象とした論考に,上野修の「精神の眼は論証そのもの」があります。タイトルからして何が主題になっているかは明白でしょう。これは『デカルト、ホッブズ、スピノザ』に収録されています。

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