スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

高揚感&第五部定理二三備考

2016-04-01 19:19:16 | 歌・小説
 二律背反となっている漱石のドストエフスキー評のうち,漱石が示す共感の中心となっているのは,共に死の瀬戸際からの生還という特異な体験を有しているという点にあります。しかし漱石はこれと関係した別の理由も示しています。
                                    
 漱石は修善寺の大患で意識が覚醒した後,一種の精神状態に陥り,その状態を毎日のように繰り返すようになったそうです。そしてその精神状態からドストエフスキーのことを連想したといっています。ドストエフスキーを想像せざるを得ないほど,その精神状態は尋常を飛び越えていたのだと漱石は書いています。
 ドストエフスキーを想像したその精神状態のことを,一種微妙な快感と漱石は表現しています。それはドストエフスキーが癲癇の発作に襲われたときに感じたもので,自己と外界が円満に調和した境地であり,天体の端から無限空間に滑落したような境地であると漱石は事前に知っていました。
 漱石はそれを知っていただけなのであり,実際に体験していたわけではありません。ですが大吐血をした後で生還した後に,こうした表現が相応しい精神状態を実際に体験したのです。これが漱石が示す共感の,もしかしたら最大の理由になっていたのかもしれません。
 ドストエフスキーはこの高揚感を,銃殺直前の恩赦として感じたのではなく,病的状態として感覚したのです。ですが癲癇という病気が神の似姿を表現することができたことから分かるように,これは神聖な病と西洋ではとらえられていました。漱石はそのことを心得ていました。つまり癲癇という病から派生する連想が,漱石の場合には聖なるものへと容易に移行できたのです。おそらく漱石が感じた尋常を飛び越えた精神状態というのは,病的にして聖なるものであったということなのでしょう。

 第五部定理二三の人間の精神mens humanaの中の永遠なるあるものaliquidというのが,第三種の認識cognitio tertii generisであるということ,あるいは第三種の認識によって現実的に存在しているその人間の精神に生起するものでなければならないということは,「個を証するもの」で出されている結論と一致しています。つまり僕は佐藤の見解に同意します。そしてこのことは,その直後にスピノザが付している備考Scholiumの内容から強化されると考えます。
 スピノザはこの備考の最初の方で,現実的に存在する人間は,身体corpusが現実的に存在する以前に自分が存在していたということを想起することはないとし,その理由を示しています。これは第一部定義八説明と関係しています。永遠性aeternitasは持続duratioや時間tempusによっては説明されないものであり,現実的に存在する以前という時間は,永遠aeterunusには属さないからです。しかしスピノザは,現実的に存在する人間も自分が永遠であると感じるし経験する(sentimus experimurque, nos aeternos esse)とも述べています。そしてその理由を以下のように説明しています。
 「精神は,知性によって理解する事柄を,想起する事柄と同等に感ずるからである。つまり物を視,かつ観察する精神の眼がとりもなおさず〔我々が永遠であることの〕証明なのである(Mentis enim oculi, quibus res videt, observatque, sunt ipsae demonstrationes)」。
 現状の課題にとって必要なのはここまでですが,備考はまだ続いています。そこで主張されていることの中心をなすのは,人間の精神が持続するdurareといわれるのは人間の身体が持続している限りにおいてであり,そしてこの限りにおいて,人間の精神はものの存在を時間によって決定したり,ものを持続するものとして認識する力potentiaを有するということです。今は関係ありませんが,たぶんこの部分は重要です。というのはこれは逆に考えてみれば,人間の精神が,というかこれは人間の精神に限らず一般に精神なるものがといっていいかと思いますが,その精神が永遠なるものとしてみられる限りにおいては,ものを時間によって決定したり持続するものと認識したりすることはないと主張していると解せるからです。実際に永遠である精神が持続とか時間を認識しないということは,この後の定理Propositioと関係していると僕は考えます。ですがそれについてはここでは考察しません。
コメント
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