スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

困難と容易&考察対象

2020-06-03 19:14:02 | 哲学
 僕がいう羨望という感情affectusを強める要素は,羨望する相手に対しては同類意識の高さで,何に対して羨望するのかということについては入手の困難性です。このうち,同類意識に関しては『エチカ』の定理Propositioによってほぼ直接的に説明することができるのですが,入手の困難性についてはそれを簡明に説明する定理が『エチカ』には存在しません。なので何らかの定理を援用して説明することになるのですが,その前に,直接的に説明することができる定理がないということには理由がありますので,羨望に関係する説明とは関係ありませんが,このことを説明しておきましょう。
                                        
 基本的に『エチカ』には,何事であれそれが困難であるとか容易であるといった形容が出現しません。これはすでにいったように,困難であるとか容易であるといったことが,対象となる事物の本性essentiaに属するわけではなく,事物を認識するcognoscere人間の知性intellectusにのみ関連するからです。
 『デカルトの哲学原理Renati des Cartes principiorum philosophiae pars Ⅰ,et Ⅱ, more geometrico demonstratae』の第一部定理七備考で,この事情が説明されています。そこでスピノザがいっているのは,どんなものであれ絶対的な意味で困難であるとか容易であるとかいわれるわけではないので,同じものが同じときに,困難であるとも容易であるともいわれ得るということです。これは『エチカ』でいえば第三部定理五一に類似したことだといえるでしょう。たとえば,同じ事柄が同じときに,ある人間にとっては困難であるといわれ得るけれども,別の人間には容易であるということもできるということです。
 ただそれでも,何事にであれ人間がそれを困難であると感じたり容易であると感じたりすることがあるのは事実です。よって同じ事柄を,ある人間は強く羨望するけれども,別の人間は大して羨望しないということは生じ得るのです。

 スピノザによる円の定義Definitioというのは,一端が固定しもう一端が運動する直線によって形成される図形,というものです。球の定義というのは,直線部分を軸として回転する半円によって作成される図形,というものです。なぜ円の定義および球の定義がこのようなものでなければならないのかといえば,これらの定義には円のまた球の,発生が含まれているからです。その定義に定義されるものの発生が含まれている限り,その定義からは定義されたもののすべての特質proprietasが,定義されたものの本性essentiaから流出するので,これらの定義はスピノザによってよい定義であるという認定を受けるのです。これに対して,たとえば円について,中心からの距離がすべて等しい平面上の図形,という命題を立てたなら,この命題は円の発生を含んでいないがゆえに,この命題はよい定義であるという認定を受けることができません。むしろ円にとって,中心からの距離がすべて等しいということは,本性であるのではなく特質なのです。いい換えれば中心からの距離がすべて等しいということは,一端が固定し一端が運動する直線ということから流出してくる事柄なのです。
 このときにスピノザは,これらの定義は円の場合も球の場合もよい定義ではあるのだけれども,だからといってそれは現実的に存在する円や球を反映しているわけではないということも同時に認めるのです。これを認めなければならないのは当然といえば当然です。実際に円とか球といったものは現実的に物体corpusとして存在しているわけですが,それら一つひとつの円のすべてが,円のよい定義に示されたような仕方で発生するわけではありませんし,各々の球が球のよい定義として示される仕方で発生するというわけではないからです。一方で円とか球というのは明らかに数学的考察の対象となり得るようなものなのですから,その場合に円や球がこのような定義によって示されなければならない,つまりそれが円のよい定義でありまた球のよい定義であるというのであれば,数学の考察の対象となっている円や球は,現実的に存在しているあの円とかこの球といい得るような円や球ではないと,スピノザは考えていることになります。

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