晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『約束の旅路』 80点

2011-05-29 13:26:48 | (欧州・アジア他) 2000~09

約束の旅路

2005年/フランス

<シオニズムのプロパガンダ映画>を超えた人間愛

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

チャウセスク政権から逃れフランスで映画製作をしているルーマニア生まれのラデュ・ミヘイレアニュ監督の3作目。’84エチオピアに住むユダヤ教徒をイスラエルに移送させた「モーセ」作戦。’91に実施された「ソロモン」作戦とならんで知る人ぞ知るイスラエルの国家戦略を題材に、9歳の少年・ソロモンが辿った半生記。
歴史的真実には諸説あってイスラエル国家の正当性を主張する、<シオニズムのプロパガンダ映画>という穿った見かたもあるが、それを超えた人間愛とくに母親の情愛の深さに心打たれる。ユダヤ人の主人公はキリスト教徒なのだ。貧しさゆえに移住を禁止されていたエチオピアから数千キロ離れたスーダンの難民キャンプへ歩いて辿りつく。母は息子に「行きなさい。生きてそして(何かに)なりなさい」と命懸けの旅へ。幼い息子を亡くしたハナが第2の母として、ユダヤ教徒のユダヤ人<ファラシャ>に成り済ますことが生きるスベだと諭される。それがハナの遺言となる。
ソロモンはシュロモと改名させられイスラエルへ。第3の母は里親のフランス人・ヤエル(ヤエル・アベカシス)で夫ヨラム(ロシュディ・ゼム)とともに里親となる。リベラリストで無神論者。この背景がしっかり頭に入らないとその先のストーリーが平板となってしまう。映画としては多少冗長さは否めないが、スタッフ・俳優たちの熱意が伝わってくるようで決して退屈することはない。
建国以来政治紛争が絶えないイスラエルに異教徒であることを隠し母を祖国に残した9歳の少年の前途は生易しいものではないことは容易に想像できる。人種の違いは肌の色で一目瞭然で、「エルサレムに行くと肌の色が白くなる」という噂は嘘だと分かり学校でも露骨な差別を受ける。敢然と立ち向かう母ヤエルの凛とした逞しさに心が救われる。演じたY・アベカシスの美しさも一層存在感を増す要因ともなっている。
シュロモを演じたのは幼年期をシラク・M・サバハ、少年期をモシェ・アガザイ、青年期をモシェ・アベベの3人。ホントウの母に会ったトキ分からないのでは?と思って食事を拒否した幼年期、サラというガールフレンドと逢って自分のアイデンティティを見つめ直し悩み続けた少年期、「人は殺さない。銃ではなく言葉で国を守る。」と言った青年期をそれぞれ違和感なく演じている。S・M・サバハは「ET」「スターウォーズ」「シュレック」の声優として有名な子役だったと知って納得。
見終わってドラマならではの人間愛を感じたが、フィクションならではのドラマ性に隠された人間の善意を信じたい気分にドップリ浸った149分でもあった。


『キサラギ』 80点

2011-05-26 13:41:01 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

キサラギ

2007年/日本

真面目にやるほど面白い密室劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

「ALWAYS 三丁目の夕日」を脚色した古沢良太のオリジナルを自ら脚色した密室劇コメディを佐藤佑一監督で映画化。
アイデアとテンポの良い演出、5人の俳優の頑張りで上質なコメディに仕上がった。
D級アイドル・如月ミキの焼身自殺の一周忌に集まった5人のオタク。アイドルサイトのオフ会場はビルの屋上に建てられた一室。
5人という設定が丁度良くこれ以上少ないと話が膨らまないし、多いと人格設定に行き詰まりそう。「七人の侍」「十二人の怒れる男たち」は傑作だったのは人格を明確に描写できていたから。
管理人の家元(小栗旬)オフ会の企画者オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)元ロッカーのスネーク(小出恵介)福島から来た安男(塚地武雅)そしてイチゴ娘(香川照之)の5人はお宝グッズで故人を偲ぶ。イイトシをした男たちがアイドルに夢中になる話なんてゾッとしないが勢ぞろいして実はどんな関わりがあったかがひとつづつ種明かしされる度に面白みが増してくる。
さすがに映像では辛い部分を何とか凌ぐうち、なるほどと思ってしまうのは脚本の面白さか?
「もう疲れた。いろいろありがとう。じゃあね。」というメッセージがキイ・ワード。
歌も芝居も巧くないアイドル・タレントがヘア・ヌード写真集で挽回を期すなどアイドルに幻想を抱く純粋な?ファンには最後までその姿を見せないほうがイメージが膨らんだかも。
インド映画のようなダンス・シーンなど5人が真面目にやるほど可笑しさがこみ上げてくる。


『ビヨンド・サイレンス』 80点

2011-05-25 14:28:46 | (欧州・アジア他)1980~99 

ビヨンド・サイレンス

1996年/ドイツ

美しいドイツの冬景色に心温まる人間描写

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

ドイツの監督カロリーヌ・リンクの長編デビュー作品で米国アカデミー外国語映画賞にノミネートされている。惜しくも逃したが、5年後(「名もなきアフリカの地で」)に見事受賞している。
ミュンヘン近郊に暮らす、ろうあの両親を持つ少女ララがクラリネットの演奏家を目指し、大人へ成長してゆく姿を清々しいタッチで描いた人間ドラマ。貧しいが美しい景色に恵まれた村で暮らすマルティン一家の支えは8歳の少女ララ。スケートや自転車で遊ぶ普通の少女が、ベルリンに住む美しい叔母クラリッサ(シビラ・キャノニカ)にクラリネットをプレゼントされ音楽の才能に目覚める。
C.リンクは実話をもとにベス・ゼルリンと共同で脚本化しているが、ろうあという特殊な家族に偏見を持つのではなく、ごく普通の家族のようにサラリと描いている。父マルティンが実家の父と折り合いが悪く妹のクリスティンと疎遠なのも、子供の頃父のピアノの伴奏で妹のクラリネット演奏を邪魔したことが原因だが、普通の家族でもよくある諍いとも言える。むしろ巣立ちをしようとする娘といつまでも手元に置きたい父親との関係をテーマに<それぞれの立場にとって程良い距離感を保つことの難しさ>を訴えている。母のカイは「子供は親のものではない」とさりげなく夫に伝えるが、マルティンは理解できてもありのままを受け入れることのもどかしさが伝わってくる。
ララを演じた2人の主人公が好演していて少女時代のタティアナ・トゥリープがとくにいい。決して美少女ではないが、勉強はできなくても聡明で、何より子供らしく微笑ましい姿に共感を覚える。両親がハンデキャッパーなのに手話で通訳として役割を果たし、都合の悪い話は言い変える機転が利いている。18歳のシルヴィー・テステューは実年齢より7歳も若い役にもかかわらず童顔で多感な少女が大人になろうとするエネルギーを小細工することなく演じていた。
何より感心したのは両親を演じた2人。父マルティンを演じたハウィー・シーゴ、母カイを演じたエマニュエル・ラボリも実のろうあ者でプロの俳優だったこと。
チョッピリ頑固で思いやりのある父と美しく前向きに生きようとする母の愛を一身に集めたララ。尊敬する叔母クラリッサ夫婦の不仲や大好きな母や恋人との別れなど大人の世界も垣間見るうち、自らの道を進むには周りの支えと家族愛がベースにあることを感じたに違いない。
ミュンヘン郊外とベルリンの大都会を比較描写しながら、抒情的なドイツの風景映像とニキ・ライザーのテーマ音楽が心地良く、心温まるエンディングへ繋がって行く。


『ブラック・スワン』 85点

2011-05-21 18:01:55 | (米国) 2010~15

ブラック・スワン

2010年/アメリカ

リアルな痛みを見事に表現したアロノフスキー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「レスラー」のサブ・ストーリーとして考えていたダーレン・アロノフスキー監督が肉体を極限まで酷使しながらその美を表現するバレエをテーマにしたサイコ・スリラー。ポランスキーの「反撥」と類似点もあるがリアルな痛みを見事に表現したアロノフスキーに新鮮味を感じた。
母(バーバラ・ハーシー)の寵愛を一身に集めプリマ・ドンナを目指していたニナ・セイヤーズ(ナタリー・ポートマン)。「白鳥の湖」公演のオーディションで憧れの元プリマ(ウィノナ・ライダー)やライバルのヴェロニカ(セニア・ソロ)ではなく自分が選ばれ、そのプレッシャーから極度の不安・焦燥感に襲われてゆく。
振付師トマス(ヴァンサン・カッセル)からは純粋無垢な白鳥は最適でも、邪悪で官能的な黒鳥は奔放なリリー(ミラ・クニス)には及ばないと降板を仄めかされる。
この作品最大の成功要因はキャスティングにある。N・ポートマンはレオンで天才子役としてデビュー以来、その美しさと優等生的演技は主人公そっくり。ただし官能的な役は相応しくないイメージがつきまといいまひとつ脱皮できないという状況にあった。女優として大きく飛躍を遂げるには黒鳥を演じ切らなければならないところ。幼い頃学んだバレエを1年近く特訓し、内面の葛藤に打ち克とうと必死に孤独の闘いに挑む姿そこ共通点が見られる。オスカー受賞でその努力が報われたが、振付師ベンジャミン・ミルピエとの婚約・妊娠というオマケつきなのも彼女らしい。代役を務めたサラ・レーンというバレリーナとの<ボディ・ダブル>論争が生じ、ミソをつけてしまったが彼女の好演にはケチのつけようがない。
かつての若手演技派NO1女優W・ライダーが更年期障害と陰口を叩かれる元プリマ役で自虐的な行為をする姿も本人に重なって見えるし、ヴァンサン・カッセルの女好きで、仕事には冷徹なところもイメージどおり。
もうひとつの成功要因は女の嫉妬心をリアルなタッチで描いていること。母は元バレリーナだったが娘の出産で諦めその夢を娘に託すが、自分が群舞ダンサーだったコンプレックスが拭いきれていない。娘への束縛はその表れでもある。複雑な母をB・ハーシーは見事に演じている。
鏡を巧みに活かしたもう一人の自分を表すのは映像手法の常套手段ではあるが、日常鏡張りの場所で演じるバレエは最適なアイテム。ニナの内面を写すことで幻覚や妄想に囚われてゆくテンポの良さは観客に有無を言わせぬ映像のチカラを感じさせられた。


『百万長者と結婚する方法』 75点

2011-05-19 17:53:26 | 外国映画 1946~59

百万長者と結婚する方法

1953年/アメリカ

3女優の魅力比べが楽しい

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

ナナリー・ジョンソン製作・脚本によるロマンチック・コメディ。20世紀フォックスのシネマスコープ第2作目というのが売りで、冒頭音楽担当のアルフレッド・ニューマン指揮によるオーケストラ演奏がFIXで延々と続く。いままではフル・オーケストラは画面が切れて映らなかったという時代だったのだ。
物語はNYのモデル3人が金持ちと結婚するのを目的に高級アパートを借り相手探しをするという、コメディ向けのハナシ。リーダーは年上のシャッツィ(ローレン・バコール)で年下のポーラ(マリリン・モンロー)が親友のロコ(ベティ・グレイブル)を呼び寄せ同居が始まる。3人の魅力比べが最大の見どころ。R・バコールはハンフリー・ボガートの25歳年下の妻として名高く共演も多い。<ザ・ルック>といわれる上目づかいの表情と個性的なハスキー・ボイスが魅力的。ここでは初老の独身貴族ハンリイに気に入られ<「アフリカの女王」に出ていた年寄りの俳優が好きだ>という楽屋落ちの台詞があった。B・グレイブルも同じく<ハリー・ジェイムスの音楽ならすぐ分かる>という実生活の夫の名を出すが実際は違っていたというネタを披露している。彼女の魅力は気さくな下町娘という雰囲気と健康的な脚線美。ピンナップ・ガールとして米兵の人気者だった。本作でも充分その魅力を振りまいてくれる。そしてなんといってもM・モンローの愛らしさはこの年から。とくにメガネをかけた女は男に嫌われると思い、人前では裸眼で壁にぶつかったり、本を逆さに読んだりとても微笑ましくキュートな魅力が全開。3人の婚活が、好きでもない金持ちより貧乏でも好きな男になる展開に及ぶが、好きな男が金持ちなら最高だという当たり前のハナシは、古今東西普遍のテーマだった。


『バガー・ヴァンスの伝説』 80点

2011-05-17 13:34:32 | (米国) 2000~09 

バガー・ヴァンスの伝説

2000年/アメリカ

ロマンティズムを再現したスポーツ・ファンタジー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ゴルフを題材にした作品ではC・コスナーの「ティン・カップ」が思いだされるが、それとは対極的なスポーツ・ファンタジー。スティーヴン・プレスフィールドの原作をジェレミー・レヴィンが脚色している。ロバート・レッドフォード監督、ウィル・スミス、マット・デイモン、シャーリーズ・セロンの共演で名優ジャック・レモンの遺作としても記憶に残るが、画面全体に清々しいハリウッド流ロマンティシズムが溢れている。
レッドフォードはまず大恐慌直後の時代設定にこだわり天才ゴルファーといわれた若者が戦争で自分を見失った環境・ジョージア州サヴァンナという街をくすんだ色調で表現している。光が燦々と射し緑鮮やかなゴルフ場で希望を見出そうとする若者・ジュナ(M・デイモン)を優しく見守っている。それはあたかも彼が失っていたスイング(自分らしさ)の再発見の場でもあるのだ。バガー・ヴァンスとは謎のキャディで僅か5ドルでジュナの再起を助けてくれる伝説の人。だれにもこんなアドバイザーがいてくれたらと思わせるがW・スミスが独特の笑顔で静の演技をしている。M・デイモンもゴルフをしたことがないのに役が決まって特訓を受けサマになっていたが少し若すぎた。当初予定していたモーガン・フリーマン、ブラッド・ピットが年令・イメージともにぴったりだった。シャーリーズ・セロンは「モンスター」でオスカーを獲ったあとの作品なので本来の美形を活かしたリラックスした雰囲気。これ以上の役割期待は持てない感じ。
ゴルフをする人にとってアマチュアの神様でマスターズ創設者としても有名なボビー・ジョーンズと当時最強のプロゴルファーといわれたウォルター・へーゲンという実在の人物がプレイするだけでも興味深々。そのヒトトナリもイメージどおりで楽しめた。2人を演じたブルース・マックギリとジョエル・グリッジのスイングも本物で影の主役といっても良い。ゴルフというスポーツが如何に精神的な要素の影響が大きいかは言わずもがな。自分探しの旅に出た主人公は人生のグリップ(把握)を再確認できたことだろう。


『仇討(1964)』 85点

2011-05-14 13:52:48 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

仇討(1964)

1964年/日本

武家社会の矛盾をシニカルに描く

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「武士道残酷物語」に続いて今井正監督、中村錦之助主演による武家社会の矛盾を鋭く、シニカルに描いた傑作。橋本忍の脚本が仇討をひとつのエンターテインメントにしながらそれに関わる運命に翻弄される人々の葛藤を鮮やかに描いて見せてくれた。些細ないさかいから果たし合いとなり上役・奥野孫大夫(神山繁)を殺してしまった下級武士・江崎新八(中村錦之助)。両家の家督を守るため、乱心ゆえの死闘だということになり、新八は人里離れた感応寺に預けられる。このあたりは組織を守るためことなかれ主義の官公庁や大企業に置き換えてみるような気分に。
仇討の場をまるで見世物のようなワクワク感で準備させる国家老や目付たち。それを黙々と故事に習い作業する部下たち。不本意ながら従う新八の兄(田村高広)や親友(小沢昭一)。許嫁りつの父は足軽の頭として現場を取り仕切るという因果まである。橋本忍のシナリオは、それぞれのシガラミがありながら結局お国のため家のためという拠り所を失いたくないエゴを浮き彫りにさせてくれる。事実上の処刑場が庶民にとっては最大の見世物だという皮肉。
新八は無役軽輩ながら己の正義を信望する熱血漢。若気の至りで果たし合いをしたが私闘をしたつもりはなく、奥野の家督を継いだ弟・主馬(丹波哲郎)が乱心者を殺すという名目で寺に来たのも我が身を守るための、云わば売られたケンカを買ったにすぎない。
最も正常なのは寺の住職光悦(進藤栄太郎)。もっぱら逃げろと勧めるが、新八は武士としてお家のための死を選ぶ。切腹も思い留まり静かに討たれようと思った新八を迎えたものは、想像とはまるっきり違った舞台設定。
錦之助の絶望と怒りそして恐怖に満ちた目の表情は圧巻で、まるで本当の死闘を繰り広げているようなシークエンス。落ち目と言われた東映時代劇を両肩に背負った悲壮な姿とも重なって見えた。
このシリアスなドラマを支えたのは豪華で演技上手な脇役陣。とくに光ったのは進藤栄太郎・三島雅夫・加藤嘉などのベテラン俳優達。それぞれのキャラクターが滲み出ていてこのドラマを多層構造の魅力で満たせてくれた。絶えず江崎家と弟を気遣う兄を演じた田村高広に誠実な人間像を見て、もう一人の主役でもあった。


『関の弥太ッぺ』 90点

2011-05-13 10:46:10 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

関の弥太ッぺ

1963年/日本

ネタバレ

男を泣かせる任侠ものの傑作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 90

ストーリー ★★★★☆90点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

長谷川伸の原作で何度も映画化された任侠時代劇。なかでも当時新進気鋭の山下耕作監督と中村錦之助の組み合わせによるこの作品が最高峰だと思う。
幼い妹と生き別れになった関の弥太郎(中村錦之助)。川で溺れそうになった娘・お小夜を助けたことが縁で五十両を遣い旅籠沢井屋へ託す羽目になる。十年の歳月がたち、別人のようなドス黒い刀傷の顔となった弥太郎は弟分箱田の森介(木村功)のタカリを知り沢井屋へ。
成澤昌茂のシナリオがいい。一説によると助監督の鈴木則文・中島貞夫・牧口雄二の三人が練り上げたものだという。台詞がカタルシスにどっぷり浸からせてくれる。「五十両はなくなったけれど、おいらお星さまになったような気分だぜ。」といって離れ、再会して名前を聴かれ「渡り鳥には名前はありやせん。」決め手となった「この娑婆には哀しいこと、つれえことが沢山ある。忘れるこった。忘れて日が暮れりゃ明日になる。ああ明日も天気か。」幼いお小夜に言った言葉が、美しい娘に成長したお小夜(十朱幸代)に同じ言葉を言うことでノスタルジックな感動の世界へ。19歳だった私は映画館で涙が止まらなかった。
山下耕作は後にヤクザ映画の大御所となったヒトだが花を象徴的に折り込むのが巧い。ここでは<むくげ>の花が咲く垣根越しのカットが2度出てくる。50両入った巾着に一輪そえた花を小窓に置き去って行く。そして別れ際の弥太郎とお小夜の会話の間にはその花が咲き誇っていた。ラスト・シーンは夕暮れ鐘の音を合図に単身果し合いに向かう弥太郎が三度笠を投げた道には彼岸花が。「シェーン」にも負けないラストシーンだ。
30歳をすぎて錦之助には大人の色気が増して「瞼の母」「遊侠一匹 沓掛時次郎」と長谷川伸の任侠ものを三作演じているが長谷川一夫に勝るとも劣らない時代劇スターとなった。なかでもこの作品は彼の代表作のひとつだろう。
敵役・木村功が等身大の男で錦之助を引き立てているほか、お小夜の父・大坂志郎、田毎の才兵衛・月形龍之介、遊女お由良の岩崎加根子も出番は少ないがベテランらしくしっかりとした演技で息が合っていた。惜しむらくはお小夜の十朱幸代に可憐さが欠けていたことか?詩情豊かな映像と木下忠二の音楽もぴったりハマって何度目かの涙を流した。


『反逆児』 80点

2011-05-12 11:56:09 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

反逆児

1961年/日本

凛々しい錦之助と格調高い伊藤演出

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

大佛次郎の戯曲「築山殿始末」をもとに伊藤大輔が監督、脚色も手掛けた。29歳の中村錦之助を三郎信康に起用して、母と妻の確執に悩まされながらも闊達な戦国の御曹司の生涯を描いている。錦之助の凛々しさが画面いっぱいに躍動して、格調高い本格時代劇を堪能した。信康を巡り今川義元の姪である母・築山の杉村春子、織田信長の娘・徳姫の岩崎加根子が女のプライドをこれでもかと見せつけられ、男の立ち位置の悩ましさを引き立たせている。母と妻の愛は実直な信康にはシガラミとなってトキには残酷非道な振る舞いにもなる。悲劇のヒロインは花売り娘しの(桜町弘子)で信康の情けを受けたことで築山に仕えるが、徳姫の嫉妬心に火をつけることに。「俺は嘘はつかない」という信康は「欲しいとはいったが、その場限りで側にいて欲しいとはいっていない」とあえなく殺害してしまう。錦之助には妙な色気があって、これが許される不思議さが漂うが、他の俳優がやったら憤懣やるかたないだろう。
錦之助のエネルギッシュな演技と新旧舞台女優の火花散る競演が際立っていて圧倒される。ほかでは東映時代劇には欠かせない信長の月形龍之介、腹心の部下・進藤栄太郎の重厚な演技に好感を持てたが、佐野周二の家康は優柔不断過ぎていただけなかった。


『大殺陣』 75点

2011-05-11 15:52:21 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)




大殺陣


1964年/日本






権力争いの果ての虚しさ





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
75点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★☆☆
70点





「十三人の刺客」のコンビ工藤栄一監督、池上金男脚本による「集団抗争時代劇」第二作目。甲府宰相・松平綱重の謎の死をヒントに当時の権力争いと争いに巻き込まれた下級武士の悲劇を描いている。前作同様最大の見せ場は最後の大殺戮の決闘シーンで、なんと約三分の一を占める大迫力。泥田の中のそれは殺陣というよりまさに殺し合いで様式美とは対極にある凄まじさ。当時は殆ど見られなかった手持ちカメラの迫力と俯瞰のカメラのロングショットの絡み合いでもあった。気鋭の工藤監督の面目躍如といったところだ。
残念なのは、池上金男の脚本の弱さ。とくに前半の書院番・神保平四郎(里見浩太郎)と世を捨てた浅利又之進(平幹二朗)との絡みや山鹿素行(安陪徹)のメイみや(宗方奈美)との関わりに弱さを感じてしまう。善悪の見境いがハッキリしない集団の裏切り粛清などで観客が置いて行かれてしまいそう。神保の妻(三島ゆり子)の理不尽な切り捨てや貧乏御家人・星野友之丞(大坂志郎)の妻子との別れにカメラ・ワークの冴えとともに想い入れを感じる以外クライマックス待ち。どう見ても老中・酒井雅楽頭(大友柳太郎)と大目付・北条氏実(大木実)の貫録に押され気味の暗殺陣がどう七人が挑むのだろうか?もっともマトモと思われた稲葉義男の存在は「七人の侍」のパロディか?軍学者・山鹿素行の短慮は説得力に欠けてしまった。
大奮闘した里見を始めとする敵味方の区別が分からない殺戮シーンが権力闘争の虚しさを引き立てる。大友柳太郎の終盤は大スターを一掃できない名残りか?いっそ平幹二朗を主演にしたほうが、説得力あるエンディングになったのでは?