ブロウ
2001年/アメリカ
実録・麻薬ディーラーの哀しいホームドラマ
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 85点
37歳の若さで突然死したテッド・デミ監督の遺作で、実在する伝説の麻薬ディーラー、ジョージ・ユングの栄光と挫折を描いている。ジョニー・デップ、ペネロペ・クルスの共演といえば今や大スター同士の豪華な顔合わせとして大いに話題となったはずだが、当時はブレーク以前でさほど注目を浴びていなかった。それに相応しく淡々とした事実の積み重ねで巨万の富を得たひとりの若者が<家族の大切さ>を実感しながら命を浪費したという想いに至る哀しいホームドラマとなっている。
50年代マサセッツ州で育ったジョージ。小さな厨房設備工事会社を経営していた父ととの絆は強かったが、貧しさから家出を繰り返す母には心から馴染めなかった。親子の複雑で微妙な関係が、後の人生に大きく関わったという設定がこの映画を人間ドラマの色をヒトキワ濃いものとしている。
彼がカリスマ・ディーラーとなったのは偶然が重なった運の強さを感じるがこれも意図的な演出によるものだろう。麻薬王パブロ・エスコパルに出会い信頼を勝ち取るまでは順風満帆で刑務所入りがキッカケとなったのは何とも皮肉なハナシ。モチロン単なるラッキーでここまでのし上がることはできないが度胸があって仲間を裏切らなかったというのは実在の人物だけに美談過ぎる気も。
ジョージを演じたJ・デップは細かいところまで行き届いた天性のカメレオン俳優ぶりを発揮しているがむしろ抑えた演技が目立った。脇では父親フレッドを演じたレイ・リオッタの息子への想いが切ない目の表情が印象に残り、助演男優賞もの。妻のP・クルスがラジー賞にノミネートされてしまったが、それ程迷演とは思えなかった。役柄が損をしたようだ。
50年代貧しかった少年が60年代マリファナというアダ花を金に変えることを体験し、70年代コカインというドラック・カルチャーを手にして時代の寵児となり80年代奈落の底に落ちて行く。アメリカの浪費カルチャーとともにジェット・コースター人生を送った男の半生記を通して、子供を育てる能力が如何に大切かを訴えている。ジョージは娘を溺愛することはできたが育てることはできなかった。