晴れ、ときどき映画三昧

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『仇討(1964)』 85点

2011-05-14 13:52:48 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

仇討(1964)

1964年/日本

武家社会の矛盾をシニカルに描く

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「武士道残酷物語」に続いて今井正監督、中村錦之助主演による武家社会の矛盾を鋭く、シニカルに描いた傑作。橋本忍の脚本が仇討をひとつのエンターテインメントにしながらそれに関わる運命に翻弄される人々の葛藤を鮮やかに描いて見せてくれた。些細ないさかいから果たし合いとなり上役・奥野孫大夫(神山繁)を殺してしまった下級武士・江崎新八(中村錦之助)。両家の家督を守るため、乱心ゆえの死闘だということになり、新八は人里離れた感応寺に預けられる。このあたりは組織を守るためことなかれ主義の官公庁や大企業に置き換えてみるような気分に。
仇討の場をまるで見世物のようなワクワク感で準備させる国家老や目付たち。それを黙々と故事に習い作業する部下たち。不本意ながら従う新八の兄(田村高広)や親友(小沢昭一)。許嫁りつの父は足軽の頭として現場を取り仕切るという因果まである。橋本忍のシナリオは、それぞれのシガラミがありながら結局お国のため家のためという拠り所を失いたくないエゴを浮き彫りにさせてくれる。事実上の処刑場が庶民にとっては最大の見世物だという皮肉。
新八は無役軽輩ながら己の正義を信望する熱血漢。若気の至りで果たし合いをしたが私闘をしたつもりはなく、奥野の家督を継いだ弟・主馬(丹波哲郎)が乱心者を殺すという名目で寺に来たのも我が身を守るための、云わば売られたケンカを買ったにすぎない。
最も正常なのは寺の住職光悦(進藤栄太郎)。もっぱら逃げろと勧めるが、新八は武士としてお家のための死を選ぶ。切腹も思い留まり静かに討たれようと思った新八を迎えたものは、想像とはまるっきり違った舞台設定。
錦之助の絶望と怒りそして恐怖に満ちた目の表情は圧巻で、まるで本当の死闘を繰り広げているようなシークエンス。落ち目と言われた東映時代劇を両肩に背負った悲壮な姿とも重なって見えた。
このシリアスなドラマを支えたのは豪華で演技上手な脇役陣。とくに光ったのは進藤栄太郎・三島雅夫・加藤嘉などのベテラン俳優達。それぞれのキャラクターが滲み出ていてこのドラマを多層構造の魅力で満たせてくれた。絶えず江崎家と弟を気遣う兄を演じた田村高広に誠実な人間像を見て、もう一人の主役でもあった。