晴れ、ときどき映画三昧

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『ブラック・スワン』 85点

2011-05-21 18:01:55 | (米国) 2010~15

ブラック・スワン

2010年/アメリカ

リアルな痛みを見事に表現したアロノフスキー

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「レスラー」のサブ・ストーリーとして考えていたダーレン・アロノフスキー監督が肉体を極限まで酷使しながらその美を表現するバレエをテーマにしたサイコ・スリラー。ポランスキーの「反撥」と類似点もあるがリアルな痛みを見事に表現したアロノフスキーに新鮮味を感じた。
母(バーバラ・ハーシー)の寵愛を一身に集めプリマ・ドンナを目指していたニナ・セイヤーズ(ナタリー・ポートマン)。「白鳥の湖」公演のオーディションで憧れの元プリマ(ウィノナ・ライダー)やライバルのヴェロニカ(セニア・ソロ)ではなく自分が選ばれ、そのプレッシャーから極度の不安・焦燥感に襲われてゆく。
振付師トマス(ヴァンサン・カッセル)からは純粋無垢な白鳥は最適でも、邪悪で官能的な黒鳥は奔放なリリー(ミラ・クニス)には及ばないと降板を仄めかされる。
この作品最大の成功要因はキャスティングにある。N・ポートマンはレオンで天才子役としてデビュー以来、その美しさと優等生的演技は主人公そっくり。ただし官能的な役は相応しくないイメージがつきまといいまひとつ脱皮できないという状況にあった。女優として大きく飛躍を遂げるには黒鳥を演じ切らなければならないところ。幼い頃学んだバレエを1年近く特訓し、内面の葛藤に打ち克とうと必死に孤独の闘いに挑む姿そこ共通点が見られる。オスカー受賞でその努力が報われたが、振付師ベンジャミン・ミルピエとの婚約・妊娠というオマケつきなのも彼女らしい。代役を務めたサラ・レーンというバレリーナとの<ボディ・ダブル>論争が生じ、ミソをつけてしまったが彼女の好演にはケチのつけようがない。
かつての若手演技派NO1女優W・ライダーが更年期障害と陰口を叩かれる元プリマ役で自虐的な行為をする姿も本人に重なって見えるし、ヴァンサン・カッセルの女好きで、仕事には冷徹なところもイメージどおり。
もうひとつの成功要因は女の嫉妬心をリアルなタッチで描いていること。母は元バレリーナだったが娘の出産で諦めその夢を娘に託すが、自分が群舞ダンサーだったコンプレックスが拭いきれていない。娘への束縛はその表れでもある。複雑な母をB・ハーシーは見事に演じている。
鏡を巧みに活かしたもう一人の自分を表すのは映像手法の常套手段ではあるが、日常鏡張りの場所で演じるバレエは最適なアイテム。ニナの内面を写すことで幻覚や妄想に囚われてゆくテンポの良さは観客に有無を言わせぬ映像のチカラを感じさせられた。