晴れ、ときどき映画三昧

『約束の旅路』 80点

約束の旅路

2005年/フランス

<シオニズムのプロパガンダ映画>を超えた人間愛

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

チャウセスク政権から逃れフランスで映画製作をしているルーマニア生まれのラデュ・ミヘイレアニュ監督の3作目。’84エチオピアに住むユダヤ教徒をイスラエルに移送させた「モーセ」作戦。’91に実施された「ソロモン」作戦とならんで知る人ぞ知るイスラエルの国家戦略を題材に、9歳の少年・ソロモンが辿った半生記。
歴史的真実には諸説あってイスラエル国家の正当性を主張する、<シオニズムのプロパガンダ映画>という穿った見かたもあるが、それを超えた人間愛とくに母親の情愛の深さに心打たれる。ユダヤ人の主人公はキリスト教徒なのだ。貧しさゆえに移住を禁止されていたエチオピアから数千キロ離れたスーダンの難民キャンプへ歩いて辿りつく。母は息子に「行きなさい。生きてそして(何かに)なりなさい」と命懸けの旅へ。幼い息子を亡くしたハナが第2の母として、ユダヤ教徒のユダヤ人<ファラシャ>に成り済ますことが生きるスベだと諭される。それがハナの遺言となる。
ソロモンはシュロモと改名させられイスラエルへ。第3の母は里親のフランス人・ヤエル(ヤエル・アベカシス)で夫ヨラム(ロシュディ・ゼム)とともに里親となる。リベラリストで無神論者。この背景がしっかり頭に入らないとその先のストーリーが平板となってしまう。映画としては多少冗長さは否めないが、スタッフ・俳優たちの熱意が伝わってくるようで決して退屈することはない。
建国以来政治紛争が絶えないイスラエルに異教徒であることを隠し母を祖国に残した9歳の少年の前途は生易しいものではないことは容易に想像できる。人種の違いは肌の色で一目瞭然で、「エルサレムに行くと肌の色が白くなる」という噂は嘘だと分かり学校でも露骨な差別を受ける。敢然と立ち向かう母ヤエルの凛とした逞しさに心が救われる。演じたY・アベカシスの美しさも一層存在感を増す要因ともなっている。
シュロモを演じたのは幼年期をシラク・M・サバハ、少年期をモシェ・アガザイ、青年期をモシェ・アベベの3人。ホントウの母に会ったトキ分からないのでは?と思って食事を拒否した幼年期、サラというガールフレンドと逢って自分のアイデンティティを見つめ直し悩み続けた少年期、「人は殺さない。銃ではなく言葉で国を守る。」と言った青年期をそれぞれ違和感なく演じている。S・M・サバハは「ET」「スターウォーズ」「シュレック」の声優として有名な子役だったと知って納得。
見終わってドラマならではの人間愛を感じたが、フィクションならではのドラマ性に隠された人間の善意を信じたい気分にドップリ浸った149分でもあった。

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