ホルテンさんのはじめての冒険
2007年/ノルウェー
ゆっくりしたテンポが心地良い
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 80点
「キッチン・ストーリー」「酔いどれ詩人になるまえに」のノルウェー監督ベント・ハメールが製作・脚本も手掛けた。定年を迎えた鉄道員を主人公にしたメランコリー(哀愁ただよう)・ユーモア作品。同じ北欧のアキ・カウリスマキと共通するゆっくりしたテンポがとても心地良く、小津作品にも通じるものがある。鉄道マニアにはチョッピリ物足りないかもしれないが、雪景色を走る列車や運転席から見るトンネルの映像は楽しい。
退職前日も、いつもどおりサンドウィッチとコーヒーをカバンに詰め、小鳥に被いをしてから出勤するベルゲン急行の運転士・ホルテン(ボード・オーヴェ)さん。無口で真面目な彼が送別会で思わぬことに遭遇して寝過ごし、初めて遅刻するハメに。
遅刻の原因になった少年との出会いや、サウナで靴を亡くし赤いハイヒールで街に出たり、尻餅をついたまま坂道を下る老人など随所にくすぐりはあるものの、むしろ<孤独とその先にある死>が全編に漂う。
風向明媚で失業率が2.7%、67歳定年の豊かな福祉国家にも、孤独を癒すスベは難しいらしい。独身の彼には年老いた母がいて、孤独と死が身近にある。自称・元外交官シッセネール(エスペン・シヨンバルグ)との目隠しドライブにも同乗したり、行きつけのタバコ屋では夫人(ギタ・ナービュ)から店主の死を知らされ、何度もマッチを取りに戻る認知症の老人を見る。全てが今までの生活では経験しないことばかりで困難に出会うと逃げてばかりいる受身の彼が、ある想いに駆られ初めて自ら行動に出る。これが冒険だった。
47億年も宇宙を旅していた隕石も旅の途中だというシッセネールの言葉「人生は手遅ればかりだが、逆に考えればいつだって間に合う」が印象深い。<何事にも遅すぎることはない>というメッセージが心に沁みる。
カンヌのパルム・ドッグ賞を受賞したモリー(犬の名前)をはじめギタ・ナーヴェ、エスペン・シヨンバルグなどの名優に囲まれ、朴訥とした風貌のボード・オーヴェがほのぼのとした雰囲気をたっぷり醸し出していた。