楢山節考('58)
1958年/日本
徹底した様式美で描いた姥捨て伝説
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 80点
深沢七郎の短編を巨匠・木下恵介監督・脚本によって映画化。歌舞伎の舞台を思わせる様式美で描いた<姥捨ての寓話>。この年、「隠し砦の三悪人」(黒澤明)「彼岸花」(小津安二郎)を抑えキネマ旬報1位となったが、ヴェネチア国際映画祭では7位だった稲垣浩監督の「無法松の一生」にグランプリをさらわれてしまった。
70歳を過ぎた老人は、口減らしのためお山へ捨てられるという寒村。69歳のおりんは嫁に死なれた息子・辰平に気立ての良い後妻・玉やんが来たのを機にお山へ行くことを決める。
寒村なるが故の風習だが、おりんは寧ろ嬉嬉としていて、33本もある丈夫な歯を恥じて石臼で前歯を折ってしまう。お山へ行くことは、神に召される喜びなのだ。ところが、隣家の又やんはひとつ上なのに、お山に行くことを嫌がり、息子は恥さらしものと言い食べ物も与えない。又やんは近所の食べ物を盗み食いしてまで生への執念を燃やす。
いまの道徳感では、親孝行息子が母親との別れを望まず泣く泣くお山へ連れて行く非情なストーリーだが、村全体のために犠牲になるという姥捨ての経済論理は少なからずあった。おりんは家族や村のため立派に務めを果たし、又やんはルールを守らない困った厄介者である。
そこまで見越しての作品ではないが、老人介護のため社会のひずみが生じて様々な問題を抱える現代への警鐘とも受け取られる。木下監督は原作の<家族の在り方・社会ルールへの問題提起>は意識していたに違いない。
良くこれほど大掛かりなセットが組めたとスタッフの技術力に感嘆するほどメルヘンの世界を創出している。これは絶対的自然崇拝の日本人にとって不可欠な映像でもある。紅葉や血の赤、雪や霞みの白、カラスの黒など色彩の効果も絶大で、竹本の三味線・長唄のBGMとともに監督の美意識の高さを感じる。終生のライバル<世界のクロサワ>がモノクロの世界に固執してしたのとは対照的で、日本初のカラー作品(カルメン故郷に帰る)を手掛けたことで足跡を残したひとでもある。
おりんを演じたちいさな大女優・田中絹代は49歳。前歯を抜いてまで役になりきった女優魂は伝説となっている。
のちの今村昌平は、オールロケでエネルギッシュな生と死を動物的に表現して、カンヌのパルムドールを受賞したが、木下作品なくして今村作品は評価されなかったかもしれない。