晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『乳母車』 80点

2012-02-18 16:24:30 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

乳母車

1956年/日本

文芸作らしい丁寧な画作り

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★☆☆70点

戦後の人間関係・恋愛模様を描いた石坂洋次郎の原作を、節度ある演出で定評のある田坂具隆監督が映画化。
鎌倉に住む大学生・ゆみ子は友人から父親に愛人がいることを知らされ、母親に尋ねる。母・たま子は知っているどころか相手を褒めるありさま。ゆみ子はどんな相手か知りたくて奥沢の家を訪ねる。出てきたのは愛人の弟・宗雄という大学生で姉はもう直ぐ帰るから待っていろという。
モノクロなのに映像が美しく、隅々まで照明が当たって良く見える。それでいながら深みが感じられ、鎌倉駅・東急九品仏駅・由比ヶ浜などロケ地がとても文芸作らしい静的な画作りが印象的。同じ場所でも同じ年製作の「狂った果実」(中平康監督)の動的な映像とは好対照だ。
その「狂った果実」に続く石原裕次郎の三作目作品でもある。役柄も<太陽族>とは好対照の姉想いで子供好きなエンジニア志望の大学生役。素直な演技は好感が持て、女性ファン拡大のキッカケとなっている。主演は芦川いづみだが、裕次郎の大スターへ進む第一歩となった作品といっていいだろう。
その芦川のいかにも良家のお嬢さんらしく初々しい魅力が、ヒット作となった最大の要因か?
ハナシは中高年の不倫ドラマで愛人に赤ん坊がいるという深刻な設定なのに、何故か一同集まって話し合いで問題解決するというドロドロにならない不思議な展開。戦後社会における<女の自立>を促すテーマが見え隠れしている。
張本人の父親は、クラシック音楽を静かに聞くのが趣味という実直な鉄工会社の常務で、恥じ入りながらも<これからも良好な関係を望む>と結構虫のイイことを言う。宇野重吉が演じていなければとんでもないと非難されそう。愛人役は新玉三千代が演じていて妙に清潔感があってらしくない。妻の山根寿子が着物が似合い、嫌なことには目を逸らす昔ながらのタイプ。あえて狙ったこの5人のキャスティングがズバリ当たって、絶妙なバランスとなっている。
<赤ちゃんコンクール>に出場するシークエンスがこの作品を観るヒトにホッとさせる展開として好印象を与えているのだろう。若い<にわか夫婦役>となる芦川いづみと裕次郎がとても微笑ましい。