アニマル・キングダム
2010年/オーストラリア
居場所のない少年がもたらす究極の選択は?
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
88年オーストラリアで起きた警官2名射殺事件の容疑者が無罪になった実話をヒントにした犯罪ドラマ。デヴィッド・ミショッド監督の長編ドラマデビュー作で、映画化まで9年の歳月を要した<10年サンダンス国際映画祭グランプリ受賞作品>でもある。
母の急死で祖母の一家に引き取られた少年ジェイが辿る過酷な運命は、観ていて緊迫感がドンドン増して行き、サスペンス的な雰囲気がある。脚本家でもある監督は、緻密な構成と一切無駄のないシーンを積み重ねながら、居場所のない少年の葛藤をスリリングに描いて行く。
一家には3人の息子がいるが、一見優しく迎えてくれた叔父たちは強盗や麻薬取引を稼業とする犯罪者で、祖母は息子達を溺愛する陰のボス的存在でもあった。
長兄ポープの強盗仲間で親友でもあるバズが足を洗って株投資を本業にしようとしていた矢先、突然警官に射殺されてしまう。ジェイの躾けを気遣う存在でもあったバズの突然の死が、一家の崩壊の始まりでもあった。両親のいない無表情なジェイは、普通の高校生ではないにせよ犯罪や暴力とは無縁の環境から、いやでも犯罪に関わるハメに陥る。ポープの命令で盗難車を手配したことで、警官射殺事件の証言者として保護されることに。
殺人シーンは実に突然やってきて、その死に様はカット替わりによって瞬く間に映像から消え去ってゆく。そのため観客は絶えず緊張感を持って映像を観るハメになる。保護監察にした警察も一家の息の掛かった警官がいたり、ガールフレンドの家も安息の場には成りえなかった。居場所のないジェイの究極の選択は衝撃的だった。
ジェイを演じたジェームズ・フレッシュヴィルは、新人ながら達者な脇役たちに支えられ少年から青年になろうとする若者像をリアルに演じていた。あまり台詞がなかったのが良かったのかもしれない。祖母を演じたジャッキー・ウィヴァーは、<米アカデミー賞助演賞>ノミネートを始め数々の助演賞を受け注目されたが、ジェイの証言を機に一家を切り崩しを図った巡査部長役のガイ・ピアースの抑えた演技が光っていた。そしてポープこと長兄のアンドリュー役のベン・メンデルソーンの狂気を秘めた悪役振りは、本作にとって忘れられない強烈な印象的存在である。