風の中の子供
1937年/日本
自らの少年時代を投影した清水宏監督
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 80点
演出 90点
ビジュアル 90点
音楽 80点
児童文学の第一人者坪田譲治の原作を清水宏が監督し、のちに児童映画の巨匠と言われるキッカケとなった作品。
青山家は会社を経営する父と母に、大人しく賢い兄・善太と成績が悪いがやんちゃな弟・三平の4人家族。日本はキナ臭い時代に突入していたが、農村はまだまだその気配が感じられないのんびりした情景だ。兄弟は近所の子供と大自然のなかターザンごっこやチャンバラで遊び廻っている。
一家に事件が起きたのは父の会社で内部騒動があって、警察に連行され戻ってこないハメに。母は働き口を探すため、幼い三平は叔父の家に引き取られる。
清水監督は子供たちの自然な演技を巧みに引きだし、いきいきとそして心温まる日常を見事に映像化している。それは腕白で祖父に育てられた自らの少年時代を投影したものでもある。
小津と並ぶ松竹・蒲田の伝統を築いた巨匠にもかかわらず田中絹代との恋が強烈で、後世作品はあまり評価されない監督だが、本作を観るとその力量の確かさはただものではない。フィルムの荒れや音声が聴き取れない難点はあるものの奥行きを感じる画面構成、カット替わりで物語がスムーズに進行する鮮やかさは、子供の心情をやたらとアップや台詞で描く感情過多な昨今の作品とは大違いだ。
父の河村惣吉、母の吉川満子、叔父の坂本武、叔母の岡村文子という地味ながら適役のキャスティング。大人たちに囲まれて三平役の爆弾小僧、善太役の葉山正雄が素朴な少年らしいリアルな演技をしているのもこの監督の手腕によるものだろう。