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できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「新しい宿命主義」と「圏外化」にどう立ち向かうか?

2009-06-07 23:46:19 | いま・むかし
キャラ化する/される子どもたち―排除型社会における新たな人間像 (岩波ブックレット NO. 759) キャラ化する/される子どもたち―排除型社会における新たな人間像 (岩波ブックレット NO. 759)
価格:¥ 504(税込)
発売日:2009-06

今日、読んでいたこの土井隆義氏のブックレット『キャラ化する/される子どもたち』に、「圏外化」と「新しい宿命主義」という言葉がでてきました。私の印象では、これからの人権教育や解放教育、さらには障害児教育や在日外国人教育等々、マイノリティの教育課題に取り組む運動は、この2つにどう立ち向かうかを考える必要があるように思います。

もちろん、私は「学力向上」への対応が不要だという気はありません。ですが、このブックレットで論じられていることを前提にすると、「人権教育やマイノリティの教育課題に取り組む運動関係者が、学力向上ばっかり論じている間に、この圏外化と新しい宿命主義が子どもや若者によりいっそう広がると、とんでもないことになる」と思ったのです。

ちなみにこの「圏外化」というのは、このブックレットの内容を私なりに整理すると、子どもや若者たちができるだけフラットな交友関係を維持しつつ、そのなかでの対立や衝突を避けたいがために、どうしても関係がぎくしゃくしそうな人を最初から排除してしまい、認知の対象にすら入れないようにする現象といえます。それはあたかも、ケータイの「圏外」にある人とは「つながらないし、つながれない」かのように、かかわると大変そうな人を扱うようなものです。また、クラス内の人間関係も序列化(このブックレットでは「スクールカースト」という言葉をつかいますが)して、「自分とは異なる、格がちがう、身分がちがう」人たちとは、最初から「かかわらない、つきあわない」ようにして、できるだけ同質の人どうしでつながろうとする。そんな傾向も、このブックレットでは指摘されています。そして、同質の人どうしでつながるなかでの息苦しさを解消するために、「いじりやすいキャラ」の持ち主を標的にしたからかいなどで、そのよどんだ雰囲気を緩和するのではないか、とこのブックレットの著者は考えています。

一方、「新しい宿命主義」というのは、たとえば学習の習慣や学歴の獲得などをめぐって、「がんばれば必ず成功する」という子ども・若者と、「何をやっても無駄だ」と思う子ども・若者との間で、「意欲の二極化」という傾向が見られる状況が生まれていること、そのことを前提にしています。その「意欲の二極化」傾向のなかで、「何をやっても無駄だ」と思う子ども・若者の間から、「自分たちの将来は、生まれもった素質などによって宿命づけられ、決まっている」かのように思う傾向が芽生えているのではないか。このブックレットの著者は、このような傾向を「新しい宿命主義」と呼んでいます。

もちろん、このブックレットの著者の主張が、はたしてほんとうに的を射たものであるのかどうかは、今後、きちんとした検証作業が必要でしょう。ただ、著者のいうこの「圏外化」や「新しい宿命主義」が、どちらも今、子どもや若者たちの過ごす学校内で本当におきていることであれば、これはこの日本社会において、たとえば差別や偏見、「いじめ」などを生み出しやすい背景要因を形作っているのではないでしょうか。

したがって、ここで著者のいう現象がほんとうに存在するのであれば、私などはまず人権教育やマイノリティの教育課題に取り組む人々が、「学力向上」について論じるのと同じかそれ以上に、この「圏外化」や「新しい宿命主義」が子どもや若者たちに広がることについて、もっと危機感を持たないといけないのではないか。また、このような現象に対して、学校・家庭・地域社会の連携のなかで、あるいは、学校教育および社会教育・生涯学習の場において、具体的にどんな教育実践・施策をもって立ち向かうのか。そこをきちんと論じる必要があるのではないか。その前に、まずはこのブックレットの著者のいうような現象が、どの程度、今の子どもや若者に見られるようになっているのか、そこから確かめないといけないのではないか。

そのようなことを、このブックレットを読んで、少なくとも私は感じました。

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