できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

今朝のMSN産経ニュースの記事から

2014-01-26 22:10:21 | いま・むかし
MSN産経ニュース 【主張】子供の権利 甘やかさない教育必要だ
http://sankei.jp.msn.com/smp/life/news/140126/edc14012603060000-s.htm

この記事に関して伝えたいことは、次の3点。
いずれも、ある方からのこの記事の内容に関するご質問にお答えするメールに書いたことからの転載(一部)です。
産経新聞の社説に出たものだと、そのある方からの問い合わせの時にお聞きしたので、その前提で以下の文章を書きました。

(1)まず、子どもの権利条約は国際条約であり、日本国は1994年にこの条約を批准しましたから、日本国憲法および子どもの権利条約双方からの締約国の(実施)義務を負うことになります。
 したがって、子どもの権利条例を制定する自治体の方が締約国の(実施)義務を誠実に履行する努力をしているわけですから、産経新聞の社説であのように言われる筋合いはありません。
 むしろ日本国政府、特に文部科学省は、1994年5月に出した通知によって、意見表明権について、
「本条約第12条から第16条までの規定において、意見を表明する権利、表現の自由についての権利等の権利について定められているが、もとより学校においては、その教育目的を達成するために必要な合理的範囲内で児童生徒等に対し,指導や指示を行い、また校則を定めることができるものであること」
「表明された児童の意見がその年齢や成熟の度合いによって相応に考慮されるべきという理念を一般的に定めたものであり、必ず反映されるということまでをも求めているものではない」
という姿勢をとってきました(下記のURLで、文科省の通知全体が読めます)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/jidou/main4_a9.htm#label1
 このような文科省の子どもの権利条約の趣旨実現に対する消極的な姿勢が、子どもの意見を聴かないようなさまざまな学校の指導を容認するとともに、おとなの一方的な理解を前提に「問答無用」で子どもを罰すること、つまり、体罰・指導死等の背景要因をなしているとも考えられます。あるいは、子どもの訴えに耳を貸さないような学校のありようが、数々の学校事故やいじめによる自殺等のケースで、その背景要因として浮上しているとも考えられます。

(2)また、このように子どもの権利条約の趣旨実現に消極的で、「もっと厳しく『しつけ』を」という論調で「家庭の教育力向上」や「道徳教育の強化」といった路線での教育政策が、1990年代後半から今日まで続けられてきました。その結果として今、子どもや若者の置かれている現状がある、という認識も可能です。したがって、産経新聞社説のような論調と、これにもとづく教育改革の方が、すでに「その実効性が問われているのに、いつまでも同じこと言い続けるの?やり続けるの? そういうことをしているから、子どもが荒れるんじゃないの?」という見方をしていくことも可能です。

(3)さらに、子どもの権利条約については締約国の広報義務(42条)が定められており、日本政府の子どもの権利条約普及に対する努力の足りなさは、国連子どもの権利委員会からすでに3回(1998年、2004年、2010年)も総括所見で改善するよう勧告が行われています。
 したがって、子どもの権利条約の広報に関するまともな日本政府の施策が行われていない以上、産経新聞社説が「子どもの権利条約の普及」や「子どもの権利条例の制定」によって「子どもがわがままになった」等の見解を示すことは、事実認識の時点からまちがっているのではないか、と考えます。むしろ「子どもの権利条約について、子どもが何も知らされていないから、子どもがわがままになっている」とも言えるわけですからね。

以上の3点、ひとまずお伝えしておきます。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本日無事、反体罰NPO・研究者... | トップ | 剣太の会in京都(2014年4月1... »
最新の画像もっと見る

いま・むかし」カテゴリの最新記事