できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

最近読んだ雑誌から(1)

2011-01-13 19:41:29 | いま・むかし

今日は最近読んだ雑誌の内容へのコメント。とりあげるのは民主教育研究所編『季刊人間と教育』68号(2010年冬号)。

まず、特集の「子どもの権利条約と日本の教育」のほうから。

最初の2本、ロタール・クラップマン「日本政府に対する最終所見のポイント(講演記録)」、世取山洋介「国連子どもの権利委員会第三回最終所見を読み解く」を読むと、最近の教育政策の動向、特に新自由主義構造改革が子どもや学校、子育て中の家庭にもたらしたものへの批判的な意識の高まりを感じる。特に世取山論文には、そのような意識を強く感じる。

でも、そのあとの実践記録4本と、最初の2本との間に、論調のギャップを感じる。確かに子どもの権利条約の広報とか、子どもの生活実態の把握だとか、あるいは学校での子どもの権利憲章作りや地域社会での子育てネットワークの形成など、「子どもの人権保障」という観点から見たら重要な実践報告。だけど、世取山論文で出された子どもをとりまく社会の現状に対する批判的な意識と、そのあとの4本の実践記録に流れている執筆者の意識との間には、かなりギャップがあるような気がするのだが・・・・。

また、宮本みち子「子ども・若者育成支援推進法とは何か」、関口昌幸「自治体にとっての『子ども・若者育成支援推進法』を考える」は、正直なところまだ「こんな法律できましたよ。うまく活用しましょうよ」というレベルの話だと思って読んだ。不登校・ひきこもり経験者など「課題のある青少年」への社会的な支援の充実にこの法律がはたす役割については、この2本の書くところに同感。だが、すでに大阪市内で「ほっとスペース事業」にかかわってきた経験からすると、「今はこの法律を活かして、どんな施策を自治体レベルで構想するかという、その段階に来ているのでは?」と思う。

木村浩則「子どもの権利条約と教育実践の課題」は、子どもとの応答的関係の重要性や、子どもの権利の視点から教育実践を反省的に見直すことの大切さなどが指摘されていて、同感だと思うところもある。ただ、反省的な実践のふりかえり、見直しについては、川西市の子どもの人権オンブズパーソンの取り組みの中で、私らは繰り返し「おとなが子どもに対してよかれと思ってしていることが、子どもの側からみればそうとも限らないこともある」という話をしてきた。そんな話もつけくわえてくれたら・・・・というところだろうか。

総じて、私としては、子どもの権利条約に関する学校での教育実践や、国連子どもの権利委員会の所見(3回目)に触れているということで、この雑誌の特集自体はプラスに見ている。だが、世取山論文であそこまで子どもをとりまく社会の現状批判を強くするのであれば、実践報告や他の論文も、この特集ではその視点でコーディネートして書く必要があったのでは・・・・と思ってしまった。

ちなみに、後半の小特集「戦後教育学理論への批判と継承」。これ、あらためて、じっくりと読みたいと思った企画である。私もこのテーマには、興味を持っている。

それと、この小特集で目を引いたのは、佐貫浩「堀尾輝久の『国民の教育権論』をいかに継承するか」の次の文章。以下、引用部分を色を変えて表記する。

1970年代、持田栄一が盛んに堀尾の「私事の組織化」論に対して、それはブルジョワ民主主義だという趣旨の批判を行っていた。今、親の「私事」が、まさに「私的欲求の公共化」として学校選択などのシステムによって「組織化」され、市場的な競争教育を推進する圧力として働いている現実からすれば、持田の批判は当たっていたともいえる。(『季刊人間と教育』68号、2010年、114ページ)

持田栄一の強い影響を受け、その公教育論を批判的に継承しようとした故・岡村達雄の教え子としてみれば、「やっぱり、そういう評価になるでしょう」ということ。「亡くなった岡村先生は昔から、持田さんの理論に学んで、こういうことを言ってきたように思うのだけど・・・・」と、あらためてこの佐貫論文を読んで思った。

だからきっと、そういう持田栄一・岡村達雄やその仲間たちからの批判の系譜を無視しないで、きちんと位置付けたうえで、堀尾輝久「国民の教育権」論について議論してほしいと思うのは、私だけではないと思う。

というような次第で、あらためてこの雑誌を読んで、持田栄一・岡村達雄の公教育論を読みなおしたいという気持ちを抱いた次第である。

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