角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

人生の「常夜灯」。

2008年10月01日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズMグループ22cm土踏まず付き〔4000円〕
紫基調の星柄プリントをベースに、合わせはエンジです。まずオーソドックスと言えるでしょうか、シンプルな綺麗さがあると思います。平生地はこちらです。



わが家のパソコンが置かれている部屋、二階の八畳間なんですが、蛍光灯の常夜灯がずーっと切れたままでした。廊下の灯りを点ければ部屋の中も真っ暗ではありませんから、ついつい電球を替えるのをサボっていたんですね。
昨日実演中にふと思いつき、西宮家お向かいの電気屋さんから電球を買いました。たった5ワットと言え、やはりないよりはずっと明るいです。

秋田市に生まれ現在横手市に暮らすという二十歳くらいの女性が、埼玉県のご友人とふたりでお越しです。おふたりとも「手作り品」に関心が高く、実演ベンチに座ると食い入るように私の手元を見ていました。ふと私が使っている草履台に目が止まり、『うわっ、樺細工だっ!』。おふたりとも樺細工のファンだったんですね。

横手市に暮らす女性が「職人道」に関心が高く、中学生時代から機会を見つけては「職人」と話をしていたと言います。私も良く知る樺細工職人と面識があり、『優しい人だったんですけど、やっぱり仕事には厳しかったですぅ』。
私も草履職人を名乗ってはいますが、樺細工の世界は私の草履なんか比較にならない技術が必要です。厳しいのは当たり前ですね。

こちらの女性がこうも「職人」に憧れるのは、彼女が想う理想の「職業人」とピッタリ来るからなんだそうです。それは、『ひとつの信念を貫き作品を完成させる姿』、確かにそれがなければ職人は務まらないでしょう。
彼女は言いました。『あたしもそんな道に入りたいのに、周りは賛成してくれないんです。職人ってやっぱり厳しいですか?』。

それまでの話の脈略から、どうやら彼女は自身の進路を悩んでるんですね。家庭環境も一因して、行きたい道に進むのが困難というのが分りました。その進みたい道と言いますか、理想とする姿が「職人道」とかぶさるようです。
もちろん職人生活が楽しいばかりとは思っていなくて、それで機会あるたびに職人へ問いかけていたんです。

真面目な質問にはもちろん真面目に答えなければいけません。『職人として生計を立てるには、どんな種類だって何年もかかる。その間ほとんど無給で暮らせるかがひとつ重要だよ。しかも何年か修行を積んだとして、飯が食えるかどうかは別問題だなぁ。あなたにその才能があるかどうかは別にして、ほかにいろんな道があることを周囲は言いたいんだよ』。

私の話に真剣に耳を傾ける彼女、きっと「反対」されるのは承知の上なんでしょうが、いろんな人からいろんな話を聞くことが大事というのも分っているようです。
私がもうひとつ気掛かりだったのは、彼女が理想とする姿が『ひとつの信念を貫き作品を完成させる』という点だったんです。

私が言ったのは、『それは職人だけの世界じゃない、サラリーマンにだってそういう気持ちはとっても大切だよ。これから向かう仕事が自分の本意じゃないにしても、まず頑張ってみることだな。今すぐに自分の将来を決めてしまう必要はないよ』。

もっと上手く話してあげられればイイのですが、今の私にはこれくらいが精一杯でした。進む道に悩むのは若者の証し、いや人間の証しじゃないですかね。
暗闇の中で悩める若者の問いかけに、パッと明るい道筋を見つけてあげられればイイのかも知れませんが、今日の私の話はせいぜい“5ワット”くらいでしたかねぇ。それでも、「ないよりはマシな灯り」であってくれればイイのですが…。

コメント (2)
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