緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ベートーヴェン ピアノソナタの名盤(9) 第20番

2014-04-06 23:11:15 | ピアノ
こんにちは。
土曜日は朝から仕事。今日は休めた。いろいろやりたいことがあるのだが、時間が思うようにいかない。
でもパソコンを8年ぶりに交換し快適になった。これだけでも大収穫だ。
さて久しぶりにベートーヴェンのピアノソナタの名盤の紹介です。
名盤といっても音楽評論家が選んだ演奏をここで紹介するのではありません。
私自身がたくさんの演奏を聴いて最高に感動したものを名盤として紹介するものです。
今日は9回目の第20番、Op.49 No.2 ト長調です。



この曲は第19番とともに32曲のソナタの中では最も技巧的、音楽的にもやさしい曲だと思います。
2楽章形式のソナタなので決して小品と言える規模ではありませんが、初級から中級に移行するくらいのレベルで演奏される曲なのではないかと思います。
第1楽章は何か嬉しいことがあった時に感じるであろう気持ち、軽やかに飛び跳ねるような気分を感じます。
特に下記のフレーズで感じることができる。



ベートーヴェンの作曲の根幹は自分の感じた気持ちを音楽にしたことにあると思います。
ピアノソナタ全32曲を聴いているとそう感じざるを得ません。ドビュッシーやラベルの印象派の音楽、バッハの構成美に見られるような音楽とも根本的に違います。
ベートーヴェンのピアノソナタを聴いて、共通の音楽性、作曲に対する価値観を感じるのはガブリエル・フォーレのピアノ曲、特に13の夜想曲です。
両者ともひたすら自らの内面に感じる感情を主題に音楽を作っています。後期の作品は両者ともに深く、なかなか理解できるものではありません。後期の作品はある一点の感情を表現しているのではなく、過去からの長い積み重ねによるドラマを感じさせることがあります。そういう意味で他の作曲家ですが、リストの力作であるピアノソナタ・ロ短調も同じものを感じます。
横道にそれましたが、この第20番を聴くと、ベートーヴェンはいろんな感情を味わった人生を送ったと感じるのです。今の時代にこの第20番のような嬉しく、飛び跳ねるような前向きな気持ちを感じることは滅多にありません。
大抵の人は、職場や学校でのわずらわしい仕事や人間関係で精神が疲弊しています。
しかしこの嬉しい飛び跳ねるような気持ちは本来誰でも潜在的に持っている感情であることは間違いないと思います。
この潜在的な感情を日常世界で実際に感じることが出来たらどんなに幸福かと思うが、実際にそれができなくても、このベートーヴェンのピアノソナタを聴くことでその感情を潜在意識から呼び戻すことができる。そしてその感情を疑似的に感じることができるのです。
まさにこの体験を得ることが音楽を聴く醍醐味であり、このような、作曲者が音楽で表現した感情を、聴き手に最高度に伝達することのできる演奏家が真の音楽家であり芸術家と言われる所以だと思います。
第1楽章はアレグロ・マ・ノン・トロッポなので、あまり速く弾くべきではないと思いますが、かなり速いテンポで弾いている奏者が結構います。普通のアレグロで弾いています。
技巧の易しい曲を、指定されたテンポ以上の速さで弾く傾向のある奏者がいますが、技巧をアピールする気持ちが無意識にあるのか、あまり感心しません。テンポが速すぎると先のベートーヴェンの感じた嬉しさを十分に感じることができません。嬉しさは普通のアレグロのような速いテンポでないと思います。
第2楽章、テンポ・ディ・メヌエットは、第1楽章よりもやや遅いテンポになるのですが、第1楽章と同じアレグロの速度で弾いている奏者がいます。たぶんこのような奏者は速くあっさりと弾くことが体に染みついているのだと思います。音量もやや弱めで、メロディ部分は磨き抜かれた美しい音で弾かないとだれたような音楽聴こえてしまいます。




さてこの第20番の録音の聴き比べをした奏者は次のとおりです。
①アルトゥール・シュナーベル(1933年、スタジオ録音)
②フリードリヒ・グルダ(1968年、スタジオ録音)
③ヴィルヘルム・バックハウス(1953年、スタジオ録音)
④ヴィルヘルム・バックハウス(1968年、スタジオ録音)
⑤ディーター・ツェヒリン(1970年、スタジオ録音)
⑥マリヤ・グリンベルク(1965年、スタジオ録音)
➆ペーター・レーゼル(2008年、ライブ録音?)
⑧ヴィルヘルム・ケンプ(1951~56年、スタジオ録音)
⑨ヴィルヘルム・ケンプ(1964年、スタジオ録音)
⑩クラウディオ・アラウ(1967年、スタジオ録音)
⑪エリック・ハイドシェク(1967~1973年、スタジオ録音)
⑫イーヴ・ナット(1954年、スタジオ録音)
⑬タチアナ・ニコラーエワ(1984年、ライブ録音)
⑭ジョン・リル(録音年不明、スタジオ録音)
⑮パウル・バドゥラ・スコダ(1969年、スタジオ録音)
⑯エミール・ギレリス(1984年、スタジオ録音)
⑰ダニエル・バレンボイム(1967年、ライブ録音)
⑲ジャン・ベルナード・ポミエ(1992年、スタジオ録音)

この中で感動した素晴らしい演奏を紹介します。
まず1番目は、⑩クラウディオ・アラウ(1966年、スタジオ録音)



古い録音であるが、生の音がストレートに伝わってくるいい録音です。
アラウの最大の魅力は音と音楽性です。
アラウの弾く音や音楽からは実にいろんなものが伝わってきます。何度も繰り返し聴いていくたびに新しいものを教えてくれたり感じさせてくれたりします。技巧は地味ですが、この音から伝わってくるものは何のだろうと思ってしまう。多分心の芯から溢れ出てくる感情エネルギーに間違いないと思うが。
また音の層が実に厚い。和音を聴いても色々な音が幅広く聴こえてくる。バックハウスを聴くよりも何十倍も得られるものが大きい素晴らしい演奏です。
2番目は⑭ジョン・リル(録音年不明、スタジオ録音)。



正統的な演奏スタイルで楽譜にも忠実であるが、機械的な演奏では決してない、感情的でもあり深い演奏のできる人。特に芯の強い音は魅力的だ。流暢なテクニックを持つがタッチに芯があるので軽く聴こえない。
特に下記の部分などは胸のすくような演奏です。



3番目は➆ペーター・レーゼル(2008年、ライブ録音?)。



チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の聴き比べをしていた時に出会った演奏家です。旧東ドイツ出身のピアニストで、初めて聴いたときは地味な印象であるけれど、何故か何度も繰り返し聴きたくなってしまう不思議な魅力を感じた。今回の第20番も同じです。音がみずみずしく、頭で考えたような余計な表現や弾き方をしない、誠実感のある演奏が持ち味だと思います。

この第20番の聴き比べをして、奏者により実にテンポが違うことがわかった。速目のテンポを好む奏者の演奏は概して音が単一、モノトーンでタッチも軽い傾向にあるが、中には速いテンポでも芯の強い音を出せる奏者がいることもみえてきた。
アラウのような音を重視するピアニストは速目のテンポを取らないことが多い。楽器特有の音の魅力と感情エネルギーの聴き手への伝達と、流麗な速いテンポの双方を満たす演奏をすることは非常に困難なことなのだと思います。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 2014年度Nコン高等学校... | トップ | ベートーヴェン ロンド ト... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (マサコ)
2015-02-12 10:47:45
アラウの演奏を細かく表現された内容は、私がシューマンのアベッグ変奏曲変奏曲に感じていたアラウの面影を代弁していらっしゃると思いました。
フォーレの夜想曲#13は全く知りませんが、ベートーヴェンの20番は子供でも簡単に弾ける曲ですし、1つの曲の面影に他の曲に表わされる面影との共通点を感じられるのは素敵ですね。

シュナーベルにとってこの曲は易し過ぎて、つんのめりが目立ってしまい気の毒です。
返信する
Unknown (緑陽)
2015-02-13 00:58:11
マサコさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
フォーレの13の夜想曲は彼が30代の後半から死の3年前までに作曲されており、ベートーヴェンのピアノソナタと同じように作曲家の精神の変遷が感じられ、人生の縮図を見ているように感じられます。
フォーレは年を経るごとに聴力に障害が現れ、晩年は殆ど聴こえなかったと言われています。
そのことが原因かわかりませんが、夜想曲の7番から次第に暗い兆候が表れ始め、最後の13番は人生に失敗した人間の死を目前とした、嘆きのような気持ちが感じられる暗い曲です。私の好きなピアノ曲の1つです。
シューマンのアベッグ変奏曲、今度聴いてみます。
シューマンにもいいピアノ曲がありますね。
もう一つの記事に、コメントを頂きましたが、今日も帰りが遅く、明日以降にご返事させていただきます。
返信する

コメントを投稿

ピアノ」カテゴリの最新記事