緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

グラナドス作曲 スペイン舞曲第10番を聴く

2013-08-31 22:59:59 | ピアノ
今日は大変暑い1日でした。
クラシックギターを弾く人は必ずといっていいほど弾いたり聴いたりする曲の一つとして、スペインのピアニスト兼作曲家のエンリケ・グラナドス(1867~1916)が作曲したスペイン舞曲があります。
このスペイン舞曲はオリジナルはピアノ曲であり、12の曲からなるのですが、ギターでは第5番「アンダルーサ」と第10番「ダンサ・トリステ(悲しい舞曲)」が知られており、スペインのギタリストであったミゲル・リョベートのギターへの編曲が知られています。
今日紹介するのはこのうち第10番なのですが、悲しい舞曲と名づけられているにもかかわらず、曲想は明るく舞曲らしい躍動感を感じるものです。
この1週間で手持ちのCDでこの曲の聴き比べをしてみました。



まずはオリジナルのピアノ演奏で、スペインのピアニストでアリシア・デ・ラローチャの録音です。
ラローチャはグラナドスの高弟や、グラナドスに直接習ったと言われている母親にピアノの手ほどきを受けたこともあり、グラナドスや同時代のアルベニスなどのスペインもののピアノ曲の演奏では第一人者との評価を受けています。
ラローチャは12のスペイン舞曲集を私が知る限りでは3回録音しています。
私が始めて彼女の演奏を聴いたのが20代半ばの頃で、姉の家に遊びに行ったときに姉が当時持っていたラローチャのレコードを聴かせてくれたときです。
全部は聴きませんでしたが第5番は聴いたと思います。そしてラローチャの弾くスペイン舞曲集のCDが欲しくなり探して買ったのがラローチャが30代初め(1954年)に録音したものでした。



この録音は姉の家で聴いたものとは違っていて、録音が古くノイズも多かったため、がっかりした記憶があります。私が20代後半だった時だと思います。
今日久しぶりにこのCDを聴きましたが、ラローチャが若いときのエネルギーに満ち溢れた演奏であり、第10番に関しては彼女の3度の録音の中では最も聴き応えがあります。
ラローチャの演奏は、このスペイン舞曲にしても詩的ワルツ集にしても年老いた時の演奏よりも若いときの演奏の方が力強く、魅力を感じます。
2番目の録音は1982年、ラローチャが60歳手前の円熟期に演奏されたものですが、楽譜に忠実な模範的な演奏です。姉の家で聴いたのがこの録音です。



ただ私には1954年の録音に比べると洗練された印象を受けるもののやや物足りなさを感じます。もっと生き生きとしたエネルギーや躍動感が欲しい。
ラローチャの3番目の録音が1994年にアメリカで録音されたものですが、70歳を過ぎたこともあり、音に力が無く、彼女の本領が失われた演奏です。



次にこの曲のギター編曲の演奏ですが、最も聴き応えのあるのがアンドレス・セゴビアの最盛期の録音です(1958年)。



この録音を初めて聴いたのが高校2年生の時でしたが、とにかく音や演奏の流れに強いエネルギーを感じる素晴らしいものでした。この第10番と合わせてレコードに入っていたマハ・デ・ゴヤと共に毎日何度も聴いたものです。
初めて聴いてからもう30年以上経過していますが、細部にわたりセゴビアの演奏は記憶に残っています。そのくらいインパクトのある演奏です。
次に聴いたのが大学生の時にラジオから録音した、スペインのギタリスト、ホセ・ルイス・ゴンザレスのものです。



ホセ・ルイス・ゴンザレスを初めて聴いたのが高校3年生の時で、FMラジオから録音したものでしたが、バリオスの郷愁のショーロや前奏曲ハ短調、サーインス・デ・ラ・マーサのアンダルーサなどの演奏に衝撃を受け、毎日何度も聴いていました。
このスペイン舞曲第10番の録音も彼の最盛期の演奏であり、ギターでこれほどの音が出せるのかというほど、独特の鋭くかつ力強く美しくエネルギーに満ちた音を聴かせてくれます。
弦高の非常に高いと思われるホセ・ラミレスのギターを使用しており、音のビリ付きも多いがそれが全く気にならないのが不思議だ。
次にしばらくたってから聴いたのが、キューバ生まれでアメリカを本拠地として活動しているマヌエル・バルエコの録音(1991年)。
聴いた印象は、生気が失われ、エネルギーや躍動感が全く感じられない。
音に力が無く、聴いていて心に何も届いてこない。
バルエコが1980年代に録音したヴィラ・ロボスのブラジル民謡組曲の演奏もそうであったが、音に感情エネルギーが無く、聴いた後、何かしらけたような無感動を感じる。
バルエコは高い安定した技巧で、コンサートでもミスの少ない演奏で評価されてきたと思うが、音楽的には魅力を感じない。
次に最近聴いたのが、ロシアのピアニスト、マリヤ・グリンベルクの演奏で、1959年、彼女が51歳の時の最盛期に録音されたものです。



最初、音が小さく静かに始まりますが、次第にクレッシェンドしていき、転調する箇所で力強い演奏に転じ、それから何度かの強弱が繰り返され、中間部のカンタービレからアンダンテを経て、最初の主題に戻るまでの部分は物凄い演奏です。こんな演奏聴いたことがありません。最初の静かな始まりがこのクライマックスのためにあるのだと感じさせられる。





技巧も凄いが、それよりもグリンベルク独特の音の力強さ、エネルギー、音が強くても、演奏速度が速くても、決して音楽性、芸術性を失わず、持続させたまま弾き切るのを聴くと、感動以上のものを感じずにはいられない。
グラナドスのこの曲をこのような解釈で演奏するのは、彼女が多くの作曲家の曲を研究し、長い期間にわたり演奏会や録音で弾いてきたからに違いないと思います。
グリンベルクの演奏はどの曲に対してもとても真剣であり誠実さを感じます。
なお、ラローチャの演奏は殆ど楽譜に忠実ですが、最後の部分で楽譜には無い音を追加しており、グリンベルクやセゴビアは数小節省略して弾いていることも興味深い。
またピアノとギターで強弱のつけ方に違いがみられるのも面白く、楽器の特性の違いにより、演奏者がベストな表現を採用していることがわかります。
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