晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『高砂』

2017-09-10 | 日本人作家 あ
この作品は、先日読んだ「ほら吹き茂平」と同じ出版社
から出ていて、サブタイトルも同じ「なくて七癖あって
四十八癖」で、シリーズものとはまたちょっと違うのか
もしれませんが「人情時代小説短編集」ということで。

「ほらふき茂平」では、茂平さんが出てくるのは最初の
一遍のみで、あとは別の話でしたが、今作はぜんぶ同じ
登場人物。

日本橋堀留町の会所に住む又兵衛とおいせの夫婦。
そもそも又兵衛は深川で材木仲買人でしたが、息子に
商売を譲って息子夫婦とは別居をしたいというのです。

というのも、おいせは又兵衛の正式の妻ではなく、
息子の嫁が「私は将来、お義父さんの面倒なら見る
けど正式の姑ではないおいせさんの面倒は見たくない」
と話しているのを聞いてしまったのです。

それならと又兵衛の友人の孫右衛門が、堀留町の会所
を紹介してくれたのです。「会所」とは本来は町名主
の自宅を兼ねるのですが、名主は会所におらず、かと
いって会所は町内で問題があったらよく利用する場所
ではあるし、そこで、又兵衛とおいせに会所に住み込み
の管理人になってくれとお願いします。

又兵衛は三度も離縁をし、おいせも一度離縁をしてい
ます。
さて、そんな会所に揉め事が。

畳職人の儀助の妻おいせが四人の子供を連れて会所に
逃げてきます。なんでも儀助は給料を酒代にほとんど
使ってしまい、一家は困っているとのこと。
話を聞けば、儀助の職場の畳屋でトラブルがあったよ
うで・・・という「夫婦茶碗」。

おいせの知り合いで、大工の徳次の娘(おつる)が
お武家に嫁入りしたのですが、たびたび実家に帰って
きては金の無心をするというのです。じっさい、お
つるの嫁ぎ先は無役で暮らしは楽ではありません。
ところがおつるの夫の姉がこの家の生活を苦しくして
いる元凶なのでは・・・という「ぼたん雪」。

正月、火消しが梯子に登って軽技を披露する出初式
がありますが、その梯子乗りは浜次だと聞き、おいせ
は「悪たれ浜次・・・」と。
浜次は少年のころから近所の鼻つまみ者で、見かねた
大工の棟梁が引き取り、素行は悪くなくなりました。
じつは浜次には、別れた妻と息子がいるのですが、
その妻の再婚相手を浜次が殴って浜次が捕まり・・・
という「どんつく」。

(口入屋)という、今風にいえば人材派遣業「甲州屋」
は、女主人の(おみさ)が店を仕切っていて、亭主を
四六時中怒鳴り叱っていて、周りは「甲州屋の亭主は
気の毒に・・・」と思っています。が、ある日のこと、
その甲州屋の亭主がおみさではない女と歩いているの
を又兵衛は目撃します。それから三日後、甲州屋では
亭主が行方不明だと・・・という「女丈夫」。

船宿「天野屋」の息子(みっちょ)は発達障害の子で
すが、近所から可愛がられています。
小さい娘が誘拐されて殺されるという事件が続いていて、
その犯人が(みっちょ)なのではないかという噂が
又兵衛とおいせの会所に伝わります。そして、その噂を
流した人物というのが富沢町の畳屋のお内儀らしいので
すが、なんと畳屋のお内儀と天野屋のお内儀は古い友人
だったのです。結局(みっちょ)には動機不充分でアリ
バイもあったので無罪放免となったのですが、ではなぜ
畳屋のお内儀は(みっちょ)が怪しいと告げたのか・・・
という「灸花」。

寒くなり又兵衛は長期間風邪をこじらせて、ずいぶんと
弱気になります。もし自分が先に死んだら、正式に祝言
をしていないおいせはどうなると急に心配になり・・・
という「高砂」。

どうやらこの続編はなさそうなので残念ですが読んでみた
かったですね。ドラマ化にしても面白そうですね。

文中で、又兵衛は名主の手伝いで人別(戸籍)改めをする
のですが、夜逃げや行方不明になった人の「扱い」が、
武士は「出奔(しゅっぽん)」、農民は「逃散(ちょう
さん)」、町人は「欠落(かけおち)」と身分によって
違うというのです。
「かけおち」といえば、親に反対された愛し合う男女が
手に手を取って逃げる・・・まあこの場合は(駆け落ち)
で字が違いますが、行方不明となった町人全般を(かけ
おち)としていたようですね。
コメント
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