晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『おせん』

2017-09-06 | 日本人作家 あ
この作品は、女性が主人公の短編集となっております。

「蕎麦切おその」は、幼少時の精神的ショックで蕎麦
しか食べられないという特異体質になってしまった
(おその)という女性が、東海道中の旅籠で蕎麦打ち
職人として人気になり、濡れ衣を着せられて旅籠を
クビになり・・・

「烈女切腹」は、阿部対馬守の江戸屋敷、吉村嘉六の
娘(りつ)の話。りつは、藩の側用人、渡辺茂太夫の
の家を訪ねるといきなり茂太夫と息子を切り殺します。
茂太夫は殿さま(お気に入り)の家臣で、それをいい
ことに汚職にまみれ自分に抵抗する家臣をことごとく
閑職に追いやりとやりたい放題で、りつには婚約者が
いたのですが、その婚約者は茂太夫一派の養子に入って
しまいます。
この一件で茂太夫の対立派は勢いついて殿にりつの助命
をお願いしますが、殿は「ならぬ!切腹だ!」の一点
張りで・・・

「おせん」は、弥四郎という男が逮捕されますが、この
男、おせんという娼婦の常連客で、島流しが決まって
数日後、おせんの家に弥四郎の妻と母が訪ねてきて、夫
がこうなったのもあんたのせいだと弥四郎の母を置いて
いってしまいます。言いがかりも甚だしいとはいえ、
老婆を放っておくわけにもいかず、下女としておせんの
家に置いておくことに・・・

「力婦伝」は、とある武家のひとり娘(さつ)の話。
さつは体格も良く力持ちで武芸も達者で、となると
嫁のもらい手がいないので困っていた両親のもとに
さる大名家の奉公の話が来ます。
奥御殿の(道女)の専属奉公となったさつですが、
殿さま(お手付き)の道女には、奥方付き年寄の
(沢野)をはじめとして数多くの嫉妬や意地悪が
ありましたが、大女のさつが来てから嫌がらせは
減り、道女とさつの仲も良くなります。
しかし、ある日、沢野の陰謀で道女は恥をかかさ
れ、なんと道女は自害。怒ったさつは沢野を殺し
ますが、殿はさつに「あっぱれ」と・・・

「御菓子所・壺屋火事」は、菓子舗(壺屋)で、
奉公人の惣次郎が包丁で主人を刺そうとした疑い
で捕まります。惣次郎はもとは別の菓子屋の番頭
でしたが店が潰れて壺屋に引き取られ、たちまち
手代に昇格し、壺屋の女将にも気に入られます。
もともといた壺屋の奉公人たちは惣次郎に嫉妬し、
「壺屋の主には惣次郎さんがお似合いだね」という
世間の声に、婿養子の主人は惣次郎に殴りかかり
ます。惣次郎は台所に行って包丁を持ったところ
をほかの奉公人に押さえつけられます。
奉行所の取り調べでは「主人を刺そうとしたので
はなく自害しようとした」と殺意を否定、牢屋の
中で病死してしまい・・・

「女の血」は、さる大名家の家臣の娘(八千代)
の話。八千代は土屋金之助のもとに嫁ぎます。
ある夏の日。八千代の実父の葬式で、八千代の
結婚前に「どうしても嫁に・・・」としつこく
言ってきた石井弥十郎という男が、酔っ払って
葬儀中に笑い出し、注意した金之助にいきなり
斬りつけ、逃走します。
父の葬式で夫を殺害するという狼藉をした弥十郎
を許せない八千代は復讐に出ようとしますが、
妻が夫の(敵討ち)は許可が出ないケースが多く、
しかし八千代は剣術道場に入門して・・・

「三河屋お長」は、足袋問屋「三河屋」のひとり娘
(お長)の話。お長はもうすぐ結婚。ある日のこと、
買い物の帰り(弥市)を見かけます。弥市は三河屋
出入りの足袋職人で、お長の元恋人でしたが、娘が
きずものにされたと言い触らされたくなかったら金
よこせと三河屋を強請し、さらにお長に「不作の
生大根なんかにもう用はねえや」と暴言を浴びせて
逃亡したのが一年前。
お長は弥市の跡をつけ、弥市が家に入って寝静まった
ところに家に侵入して弥市を絞め殺します。
弥市殺しの犯人は見つからないまま時は過ぎ、お長
は結婚し、子をもうけて、店も商売繁盛、不自由ない
生活を送っていますが・・・

「あいびき」は、大店の菓子舗「翁屋」の主人の妻(お徳)
の話。お徳は、上野・不忍池ほとりの茶屋で坊主と(あい
びき)をしています。さて、お徳が茶屋にいるのを若い男
に見られます。文吉という男はお徳の実家の近所にいた男
で、なんとお徳に「だまってあげますから、三十両ばかり
都合してくれませんか」と・・・

「お千代」は、大工の松五郎の飼い猫(お千代)の話。
松五郎は腕の良い大工ですが、まだ独身で、飼い猫と
暮らしています。世話好きの大工の棟梁が松五郎に縁談
話を持ち込み、松五郎は仕方なく(おかね)と結婚しま
すが、自分よりも猫を可愛がる松五郎におかねは不満の
様子。ある日、松五郎は昼飯を食べようとしますが見つ
からず、近辺を探すと、浮浪者が松五郎の握り飯を食べ
ています。そこに飼い猫のお千代が来て松五郎の服の
裾をくわえて引っ張ります。これはおかしいと家に戻る
と家の中でおかねと医者が不倫の真っ最中で、さらに、
松五郎の弁当を盗み食いした浮浪者が血を吐いて死んで・・・

「梅屋のおしげ」は、妾宅で女中兼子守りをしている
(おしげ)の話。おしげは顔に痘痕があり、周囲の大人
は憐れんだり気持ち悪がったりしますが、良い子で働き者。
ある日、子守りをしていると見知らぬ男が「おうめの
知り合いの宗助」と声をかけてきます。おうめはおしげ
の姉で、宗助はおうめの(馴染み客)で、おうめと駆け
落ちを約束して宗助は店から金を持ち出してきたのです
が、おうめの働く汁粉屋では「おうめは辞めました」
というのです。おしげはおうめの家に行ってみるとそこ
におうめがいて、宗助の話をしますが「そんな男は知ら
ない」と言い、口論になり、おうめはおしげに向かって
「この化けもの・・・」と言ってしまい、おしげは金火箸
を姉の胸に突き刺し・・・

「平松屋おみつ」は、煙管職人の娘(おみつ)が買い物
から帰ってくると、父親が殺されています。犯人は見つ
かっておらず、おみつは漁師の甚五郎という父の友人の
家へ。甚五郎は「お前の父さんを殺したやつが憎い」と
犯人捜しをしてくれているのですが、仕事の漁には出て
いません。そればかりか、おみつが家から持ってきた金
を「貸してくれ」と言い出します。
甚五郎の家を出たおみつは奉公先を紹介してもらいます。
(平松屋)という小間物問屋で、内儀(おりん)の小間使
として奉公することに。
ひとり息子は、三十過ぎでまだ独り身。正式には三度も
離縁しているのです。というのも、おりんが口やかましい
ので嫁がすぐ出ていくそうで・・・

「おきぬとお道」は、貧乏御家人の次男坊、木村万次郎に
養子の話が舞い込みます。万次郎はその相手を一目見て
「兄上、あれはだめです」と断ります。(お道)は、今で
こそ(エキゾチックな顔立ち)なのでしょうが当時では
「顔の目鼻口が大きい」は(醜女)の部類で、しかも
身長も高く体格も良いということで(貰い手が無い)ので
した。ところが兄は「つべこべいってないで養子に行け」
と怒ります。が、別方面から養子の話が。相手は菓子舗の
末娘(おきぬ)の婿養子に、というのです。おきぬは
「色白でほっそりとして・・・」ということで万次郎は
即決でおきぬの婿になります。が、このおきぬ、虚弱体質
で、万次郎いわく「まるで骸骨を抱いているような・・・」。
時は幕末、万次郎は突然どこかへ消えたのです・・・

「狐の嫁入り」では、笠屋の弥次郎は、妻が病気で寝たきり、
ふたりの子がいて、仕事に家事に看病に大忙し。そこで下女
に来てもらったのですが、おだいという下女、飯は炊けず、
物忘れはする、買い物に出掛けたまま帰ってこないと最悪。
正月、弥次郎が目覚めると枕の横に狐が。なんでも自分は牝
で、結婚を約束した牡狐がいたのですが、その牡の母狐に
結婚を反対されて、命も危ないということで、一年間だけ、
この家に置いてくださいと涙ながらにお願いしてきます。
そして弥次郎が起きると、おだいがテキパキと働くではあり
ませんか・・・

どの話も、ここでは途中までしか書いてませんので、なん
だか「不幸な女性のオンパレード」みたいになっています
が、それなりにハッピーエンドになっています。

「平松屋おみつ」は、長編小説「夜明けの星」のいわば
「原作」になっていますね。「夜明けの星」では、煙管職人
を殺した浪人と、父を殺された娘のその後の人生を交互に
描いています。
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