晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

柄刀一 『ifの迷宮』

2012-05-08 | 日本人作家 た
この柄刀一という作家、デビューは1998年で、この『ifの迷宮』は
2000年に単行本が出版されたということですが、存じ上げません
でした。
未読の作家の作品は、帯や解説を参考にしていまして、この小説は
(文庫の解説)なんと宮部みゆきさんではありませんか。

雨の降る夜、山の中で警察がひとりの男の説明を聞いて土を掘って
います。男によると、2年前に、殺された知人に頼まれて、この山の
中に埋めた、というのです。

「この山」とは、山梨県では旧家である宗門(そうもん)家の近く。
少し前に土砂崩れがあり、地形が変わっていて、掘っても死体は出て
きませんが、別の位置から、男の死体が・・・。
慌てて他の人を呼びに行き、現場に戻ると、不思議と死体は消えていました。

という奇妙な「事件」から少し経ち、宗門家に住む亜美という女性が
レストルームで殺されているのを発見されます。
現場に向かう刑事の百合絵。
亜美は奇妙な状態で死んでいて、顔や手、足の裏など本人を特定できる
部分が暖炉で焼かれていたのです。
他にも、血痕の飛び散り方も奇妙。

ところで、この宗門家、SOMONグループという遺伝子関連の医療会社を経営
していて、胎児の細胞を治療に使おうとしていて、世間から批判を受けて
います。

百合絵ら刑事数人が宗門家に着いたときに、反対派グループが家の前に
張り込みをしていて、一触即発の雰囲気。

百合絵の夫の真一は生化学の研究員で、たまに警察からDNAの鑑定など
依頼されます。
真一が調べているのは、亜美のDNAだったのですが、その遺伝子は前に
死んだはずの家族のもので・・・

さらに、山に埋められた池澤という男が発見されたのですが、なんとその
DNAは、これまた前に死んだはずの宗門家の男のものだったのです・・・

はたしてSOMONグループはクローンや試写の蘇りなどをやっているのか。

そんな中、グループの新しい研究施設が土砂崩れで崩壊、中から宗門の
家族の一人が殺された状態で発見され・・・

途中で何度か頭がこんがらがりそうになりましたが、完全に分からなくなる
手前で次に進めて、まさに迷宮状態。

この話は近未来に設定されていて、出産前に赤ちゃんを診断し、お腹の中の
赤ちゃんに障害があれば中絶するというのが当たり前の世の中。
しかし百合絵と真一の間に生まれた男の子は、知的障害があり、出産前に
調べなかった百合絵にたいして、「無責任」と心無い言葉を浴びせる人も。

「遺伝子操作」として、いわば「普通」以上の、あるいは優秀な子供が欲し
ければ優秀な男の遺伝子を金で買い、「このお腹の子、ちょっと遺伝子的に
ダメそうなので堕ろすことにしたわ~」なんて気楽に命を扱うように。

そんな「命とは」というテーマも盛り込み、とても読み応えのある内容。



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