晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『夕映え』

2022-05-07 | 日本人作家 あ

一年の三分の一が経過してしまいましたが、世界での動乱をよそに自分の周囲はこれといって普通に安泰です。五月から職場ではクールビズ的な例のヤツで、制服が支給されている職種ではない事務方の男性職員はノーネクタイになります。もっと暑くなってきますと皆さん半袖のワイシャツになりますが、個人的に半袖のワイシャツというのがどうもなんといいますか、長袖でないと落ち着かないといいますか。腕に消えない絵が掘られてるわけではございません。かつて東南アジアで働いていたことがありまして、現地でお世話になった方が仕事の時は熱帯であるにもかかわらず必ず長袖のワイシャツでして、もっとも立場上ジャケットを着なければいけないことがあるので、そうすると半袖ではダメということだったんですけれど、その影響か、仕事では長袖シャツを着なくてはならないという感覚になってしまって、半袖のワイシャツは一枚も持ってません。もっとも屋内ならたいていどこでも冷房がギンギンでして逆に長袖シャツでちょうどいいくらいでした。ああでも真夏の炎天下で長袖シャツで汗だくになってる外回りの営業の人とか見ると気の毒になってきます。

以上、ヒートアイランド現象について考える。

さて、宇江佐真理さんです。この作品は幕末の江戸が舞台となっていて、物語の合間に歴史的な出来事が説明されています。

慶応三(一八六七)年。江戸の本所石原町にある一膳飯屋「福助」の女将(おあき)は今日もおでんの仕込みをしています。おあきはバツイチ、当時でいえば(出戻り)で、蝦夷松前藩の武士を辞めて今は岡っ引きをしている弘蔵と所帯を持ち、息子と娘の四人家族。悩みの種は、息子の良助が仕事が長続きしないことで、家に帰って来ません。たまに顔を出せば金の無心。と思ったら突然お伊勢参りに行ったり、かと思ったら自分は武士(正確には「元武士」)の息子だといって物騒になった江戸の治安を守ると歩兵に志願します。息子のことでじゅうぶん頭痛の種だというのに、娘のおていは青物問屋の若旦那と恋仲だというじゃありませんか。江戸からはるか西の京大坂方面では薩摩と長州が朝廷を味方につけて徳川幕府を潰そうとして江戸の将軍様は西に向かってどうなることやら。

そのうち幕府側の劣勢となり、ほうほうの体で江戸に逃げ帰ってきた上様を警護するという名目で彰義隊が結成され、なんと良助が入隊することに・・・

「福助」に来て酒を飲み飯を食う人々にとって平穏な日常が奪われるのだけはご勘弁なのですが、時代の「うねり」は止まらず、とうとう千代田城に天皇がお住まいになることになって、江戸から「東京」へと、元号も「明治」に変わります。文中で「明治」を逆さまにして「治明」、どう読むかというと「(薩長なんかにゃ国の舵取りなんざ)おさまるめい」なんてことも庶民の間では言われてたとか。

江戸時代は二百年以上も戦が無かった世界史的にも珍しい時代でして、パックス・ロマーナになぞらえて「パックス・トクガワーナ」などと例える人もいますが、要は徳川将軍家を頂点としての軍事政権であり超封建社会で、まあそれが「平和」というのならそうなのでしょうが、少なくとも自由ではありませんでした。というか、江戸時代に御公儀が出した御触れで「悪政」じゃなかったものってあったのでしょうか。たいてい庶民にとっては生活が苦しくなるものばかり。それでも庶民たちは下を向かずに汗水たらして働いてきました。そんな「庶民の側から描いた幕末」というテーマのこの作品は読みごたえじゅうぶんでとても素晴らしかったです。


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