晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本一力 『辰巳八景』

2012-07-09 | 日本人作家 や
この作品は短編が8作で、いずれも舞台は江戸城からみて”辰巳”の
方角、つまり南東、深川のあたりとなっています。

話それぞれにつながりがあるわけではありませんが、最初の話「永代橋
帰帆」は元禄十六年(1703年)にはじまって、最後の「石場の墓雪」は
天保六年(1835年)というふうに年代順になっています。

そして、話それぞれに描かれている庶民の”職業”がとても興味深く、
ろうそく問屋、せんべい屋、町内鳶、材木商、町医者、芸者、飛脚、戯作者
(小説家)がメインになっていて、他にも畳職人や三味線屋、ぞうり職人など、
どれも「うーん、なるほど」と江戸時代の文化をちょっと学んだような
お得感。

「佃町の晴嵐」では、飛騨高山から江戸に移ってきた新田正純という医者の
話で、正純は深川に医院を開業し、庶民から慕われます。
大川(隅田川)の向こう側にある佃島の住民も正純を頼りにしていますが、
深川から佃町に行くにはちょっと不便で、急患が出たら大変でした。

正純は妻を船の事故でなくし、その弔慰金で深川と佃町を渡す橋を作ることに。
そして完成した橋の名前は「にったばし」。

この「新田橋」というのは実際に現在の佃島にある橋で、この物語の
ベースとなる話もあったようです(大正時代の話らしいですが)。

「石場の墓雪」は、売れない戯作家とぞうり職人の恋の話なのですが、
これがまたなんとも甘酸っぱい切ない、良い話ですね。

よく、環境問題などで「江戸時代の生活に学べ」なんて出てきたりしますが、
山本一力の小説を読むと、学ぶべきことは多そうですが、じゃあハイ明日から
江戸時代の暮らしをしてくださいといわれたら、「生活に学べ」と言い出しっぺ
の人も、一週間どころか2~3日で音を上げるのではないでしょうか。

というくらい、この時代はタフで不自由。というより、外国との貿易もできず、
武家社会ということはつまり「軍事政権」なわけですから、窮屈な暮らしをせざる
を得なかった、が正解ですかね。

そんな不自由な中でもどこかに希望を見出して明るくたくましく生きている人々を
描いているからこその美しい話が成立するんですね。


コメント
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