晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『青が散る』

2012-05-27 | 日本人作家 ま
高校や大学が主な舞台になる青春小説はそんなに読んでるわけでは
ありませんが、なんでしょう、イメージ的には未熟な若者たちが
無責任に遊び、でも少しずつ社会を知り、笑い、悩み、傷つき、恋をし、
みたいな感じでしょうか。
そう考えるとこのタイトル『青が散る』というのは絶妙だなあ、と。

雨の振る3月、遼平はこの春から新設される大学に入学するかどうか、
大学に登る坂の手前で悩んでいると、赤いレインコートを着た女性が
います。
どうやらその女性も遼平と同じく「どうしようかなあ・・・」と入学
を逡巡している様子。

ふたりは少し会話を交わし、この大学に入学することに(入学金を納めた)
なります。女性は行ってしまって、遼平は事務局の人にさっきの女性の
名前を聞き、佐野夏子、と知るのです。

はれて大学入学となったわけですが、遼平はひょんなことから金子と名乗る
同級生に誘われてテニス部に入ることに。
ですが、大学は一年目の新設、テニスコートは無く、自分たちでつくることに。

土をならして、”にがり”を撒いて、雨が降ったらまたならして・・・そうして
テニスコートは完成します。

部員ですが、この大学には高校時代に優秀な選手だった安斎が入学してることを
知り、誘いますが、病気だと断られます。

部員はそれなりに集まります。地味だけどどこか魅力的な祐子、その祐子目当て
に入部した貝谷、などなど。

キャプテン金子は安斎を諦めたわけではなく誘うのですが、そこで安斎の「病気」
とは何かを知るのです。
しかし最近はその病気もだいぶ良くなり、やってもいい、ということで入部してくれる
ことに。

さて祐子ですが、物語の中盤手前でいきなり結婚、アメリカへ行ってしまいます。

テニス部は、インカレ目指して練習、合宿。

夏子は金持ちの男をつかまえては車で送り向かってもらって学校にはたまに
ふらっとくるような生活をしています。はたして遼平と夏子の恋の行方は・・・

この小説の面白いところは、テニス部、といってもチャラいサークルでもなく、
それなりにスポ根的な部分もあるにはあるのですが、他にも遼平が大学時代に
出会う、怪しげな喫茶店の地下にたむろしてる他の大学の学生たちとの交流も
あり、法律家志望の学生だの歌手を目指す中華料理屋の息子だの応援団だの、
なんとも種々雑多ではありますがごちゃごちゃして読みにくいという
ことはなく、どんな青春を送ったかは人それぞれですが、それぞれの「ああ、
わかるわかる」という共感できる部分の間口を広げてるあたりが、そこら辺の
”並な”青春小説とは違うなあ、と。
青春イコール輝き、は一部の話。そりゃ中には鬱屈した青春もありますね。
振り返ってみたら「非リア充」だった人のほうがむしろ多いんじゃないでしょうか。

ところで、文中ではこの大学の名前は「・・・大学」というふうに伏せてあります。
まあ、あとがきで「私は昭和41年から45年まで学生生活を・・・」と書いてあり、
文中で「田んぼや農家に囲まれた衛星都市の小高い丘の一角」にある新設大学で、
これって宮本輝さんの母校ですよね。

コメント
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