晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『ブレイブ・ストーリー』

2009-05-11 | 日本人作家 ま
面白い本だから売れる、面白くないから売れないという方式は
単純に小説などには当てはめてはいけないとは思うのですが、
それにしても、この『ブレイブ・ストーリー』が累計50万部しか売
れていないというのは、ちょっと残念というか驚き。

推理小説、時代小説の書き手としてすでに国内の文学賞をあら
かた受賞し、知名度もバツグンな著者が、ファンタジー系という
これまでになかったジャンルということで、固定ファン以外の食い
つきが悪かったのでしょうか。

それはさておき、この作品はおもしろい。
ファンタジーとはいっても、全体の3分の1は実生活での話。
日常に入り込むかたちで別世界が存在するというファンタジーでは
たいてい、というかほとんど少年少女が主人公となって、最終的に
愛とか勇気が大切だよ、というのがセオリーですが、『ブレイブ・スト
ーリー』の展開もまあだいたい同じ。

小学5年生のワタルは、ごく普通の家庭に育ち、学校の成績も普通。
しかし、幸せに見えていた家庭が父の家出に端を発し崩壊。
別な人生を送りたいと心の底から願う者だけが行くことのできる別な
世界があり、ワタルは母親の無理心中未遂から命拾いして、その別
世界、通称「幻界」へ行くのです。

ここまで書くと、なんだか子どもにとっては酷な話で、まるでかつての
大映ドラマ「赤いシリーズ」のようなドロドロ愛憎劇みたいですが、そこ
までえげつなくないことはありません。
「幻界」に行く扉は、家の近所にある建設途中で不気味な様子の通称
「幽霊ビル」の階段途中にあり、この幽霊ビルはふだんから幽霊目撃
情報が多数あって、子どもたちにとってこの手の話はトップニュース。
こういった小学生の“他愛のない”日常よくある話とパラレルワールド
を結びつけるのに、読んでいて強引さというのは感じられず、ここが著者
の巧みな部分。
「幻界」に行くと、魔導士、妖精、トカゲやら猫やらと人の中間みたい
な種族、しゃべる鳥、ドラゴンなどが出てきて、旅の仲間と冒険し、
最終的に願いをひとつだけ叶えてくれる場所に行く、といった、まるで
ゲームの世界。

この「願い」で、ワタルは自分の家族をもう一度幸せなかたちに戻すのか
「幻界」が崩壊の危機にさらされるのを防ぐのか迷うのですが、そもそも
ワタルが「幻界」に来た理由は前者を求めるため。さあどちらを選ぶのか、
というのが最大のテーマ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする