「風船乗評判高楼」(ふうせんのりうはさのたかどの)
明治24年、東京歌舞伎座で初演。
黙阿弥76歳。
どっこい生きてゐた黙阿弥の、江戸ではなく、東京の賑はひを描いた風俗舞踏劇。
尾上菊五郎の求めに応じて作られたといふ短いものですが、楽屋落ちや当時の名所、生活、風俗を盛りだくさんに取り入れて、一篇の夢話のやうで面白い。
特に、気球を見せる場面では、子役を使って遠近法を出したり、と知恵を出しての舞台を創ってゐるあたりは、歌舞伎本来が持つパワーを感じます。
既に舞台は、ロウソクや自然光ではなく、また、ガス灯でもなく、電気照明によるものだった、といふ。
黙阿弥自らは、死ぬまでランプさゑ使はなかった、とされてゐますが、
一度の引退後も、役者の求めに応じてこんな芝居を書いた老作家の、
職人としての意気地をみるやうな思ひです。
(新日本古典文学体系/河竹黙阿弥集/岩波書店、より)
(写真も、上記より)