6月23~25日は,ESHIA/WEHIAの本大会。基本的に3つのセッションが同時並行で進む。その合間に,この分野の大物の先生方による基調講演がある。いずれも,エージェントベース経済学や経済物理学の達成点について概観できる,優れた講演であった。いくつかを簡単に紹介しておく。
Rosario N. Mantegna (University of Palermo)
“Statistically Validated Networks in Financial and Economic Systems”
この方は経済物理学の入門書(以下)を Stanley と共同執筆しており(邦訳は廃刊のもよう),経済物理学の開拓者の一人のようである。今回の報告は,昨年発表された論文に基づき,2部グラフに対して統計的妥当性を調べる方法を提案するもの。Validation ということばに惹かれる。
Alan Kirman (GREQAM)
"Economic Theory in Crisis”
今度は経済学サイドの超有名な研究者で,元々数理経済学のど真ん中で研究してきたが,いまはエージェントベースの経済学を推進する側に立つ。講演の標題からわかるように,正統派の経済学に厳しい批判を加えている。今回の報告内容が詳しく書いてあるという近著は必ず読みたい。
Giovanni Dosi (Sant'Anna School of Advanced Studies)
“Heterogeneous Banks and Technical Change in an Evolutionary Model of Endogenous Growth and Fluctuations”
進化経済学の立場からイノベーションを精力的に研究でしてきた人で,個人的には何度も名前を目にする機会があった。今回の報告はエージェントベースモデルを用いた,しかもマクロ経済学を対象にしたもの。Schumpeter Meeting Keynes というコンセプト。Fagiolo も共著者の一人。
エージェントベースモデルをマクロ経済政策の提案に用いようとするのは,かなり野心的な試みといえる。しかし,マクロ経済を対象に研究をする限り,それはいつかは必ず通らなくてはならない関門だろう。個人的には Schumpeter Meeting Hayek とか Freedman とかを妄想してみたい・・・
Thomas Lux (University of Kiel)
“Modeling 'Animal Spirits' and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets“
この方は分類上は経済物理学者なのだろうけど,経済学もかなり深く理解している感じがした(とぼくがいうのは僭越だが)。最初は景気動向調査に Weldlich のオピニオンダイナミクス・モデルをあてはめるという話で,empirical validation の最前線の1つといえる。その論文は2009年に発表されている。
これに関連して,社会ネットワーク分析における Core-Periphphery(中心-周縁)構造の分析手法(実は初耳だった・・・)を使って,オピニオンリーダーを見つけ出そうとする最近の論文も紹介された。ぼく自身の現下の研究テーマから見てもかなり興味深い。
なお,一般発表も含め,北里大学の守先生のブログでより詳細かつ的確な解説がなされている(1日目,2日目,3日目)。ちなみに守先生以外にも,日本の経済物理学の第一線の方々が発表されていた。他方,前々回と違い,経済学や情報工学の研究者が日本から誰も参加していなかった(注)。
WEHIA は来年はパリで行われるそうだ。
(注)当地に留学中であった日本人ポスドク,浅沼さんのことを忘れていました。彼は東北大出身のマクロ経済学者で,エージェントベースモデルを用いた研究を行っておられます。
Rosario N. Mantegna (University of Palermo)
“Statistically Validated Networks in Financial and Economic Systems”
この方は経済物理学の入門書(以下)を Stanley と共同執筆しており(邦訳は廃刊のもよう),経済物理学の開拓者の一人のようである。今回の報告は,昨年発表された論文に基づき,2部グラフに対して統計的妥当性を調べる方法を提案するもの。Validation ということばに惹かれる。
Introduction to Econophysics: Correlations and Complexity in Finance | |
Rosario N. Mantegna and H. Eugene Stanley | |
Cambridge University Press |
Alan Kirman (GREQAM)
"Economic Theory in Crisis”
今度は経済学サイドの超有名な研究者で,元々数理経済学のど真ん中で研究してきたが,いまはエージェントベースの経済学を推進する側に立つ。講演の標題からわかるように,正統派の経済学に厳しい批判を加えている。今回の報告内容が詳しく書いてあるという近著は必ず読みたい。
Complex Economics: Individual and Collective Rationality (The Graz Schumpeter Lectures) | |
Alan Kirman | |
Routledge |
Giovanni Dosi (Sant'Anna School of Advanced Studies)
“Heterogeneous Banks and Technical Change in an Evolutionary Model of Endogenous Growth and Fluctuations”
進化経済学の立場からイノベーションを精力的に研究でしてきた人で,個人的には何度も名前を目にする機会があった。今回の報告はエージェントベースモデルを用いた,しかもマクロ経済学を対象にしたもの。Schumpeter Meeting Keynes というコンセプト。Fagiolo も共著者の一人。
エージェントベースモデルをマクロ経済政策の提案に用いようとするのは,かなり野心的な試みといえる。しかし,マクロ経済を対象に研究をする限り,それはいつかは必ず通らなくてはならない関門だろう。個人的には Schumpeter Meeting Hayek とか Freedman とかを妄想してみたい・・・
Thomas Lux (University of Kiel)
“Modeling 'Animal Spirits' and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets“
この方は分類上は経済物理学者なのだろうけど,経済学もかなり深く理解している感じがした(とぼくがいうのは僭越だが)。最初は景気動向調査に Weldlich のオピニオンダイナミクス・モデルをあてはめるという話で,empirical validation の最前線の1つといえる。その論文は2009年に発表されている。
これに関連して,社会ネットワーク分析における Core-Periphphery(中心-周縁)構造の分析手法(実は初耳だった・・・)を使って,オピニオンリーダーを見つけ出そうとする最近の論文も紹介された。ぼく自身の現下の研究テーマから見てもかなり興味深い。
なお,一般発表も含め,北里大学の守先生のブログでより詳細かつ的確な解説がなされている(1日目,2日目,3日目)。ちなみに守先生以外にも,日本の経済物理学の第一線の方々が発表されていた。他方,前々回と違い,経済学や情報工学の研究者が日本から誰も参加していなかった(注)。
WEHIA は来年はパリで行われるそうだ。
(注)当地に留学中であった日本人ポスドク,浅沼さんのことを忘れていました。彼は東北大出身のマクロ経済学者で,エージェントベースモデルを用いた研究を行っておられます。