Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「ヤンキー」ゴーミーム

2014-02-27 15:15:50 | Weblog
最近、マーケ業界の一部で大きな話題になっている「マイルドヤンキー」について知るため、原田曜平『ヤンキー経済』を読んだ。原田氏は博報堂ブランドデザイン若者研究所のリーダーである。マイルドヤンキーは、残存ヤンキーと地元族の2タイプからなる。後者は、見かけ上ヤンキーの面影がないが、地元志向という点でヤンキー性を持つ。

原田氏がマイルド・ヤンキーに注目するのは、彼らの消費意欲が、他の若者に比べ強いせいである。たとえば、クルマ、酒、タバコのような、若者の間で「離れ」が起きている製品を、マイルドヤンキーは好んでいる。彼らは消費者調査で現れにくいが、重要なターゲットなのだ(本書の最後には、彼らをターゲットにした商品企画案が列挙されている)。

ヤンキー経済
消費の主役・新保守層の正体
(幻冬舎新書)
原田曜平
幻冬舎

マイルドヤンキーはITへの関心やスキルは低いとされるので、消費者調査の主流であるウェブ調査で彼らを捉えるのは難しい。しかし原田氏は、実際に彼らに会い、自宅にまで上がり込んでインタビューするというフィールドワークを精力的に行う。若者研に参加している学生たちも動員される。そこで明らかになるヤンキー像はなかなかリアルである。

そもそもここでいうヤンキーとは何かに疑問を持つ向きは、難波功士『ヤンキー進化論』を読むことを薦めたい。社会学者である難波氏は、多くの文献(含雑誌記事)、映画、漫画などを通して、ヤンキーということばの起源を探っていく。その結果、大阪のアメリカ村で生まれたとか、大阪弁の「~やんけ」から来ている、といった大阪起源説は否定される。

ヤンキー進化論
(光文社新書)
難波功士
光文社

ヤンキーの起源を探ることは、戦後日本の不良の歴史を探ることであり、その周辺の若者風俗史、あるいはファッションの歴史を探ることになる。ヤンキーという概念が変遷していくプロセスは、ミーム(文化的な遺伝子)が変異と交叉によって進化するというイメージがぴったりくる。マイルドヤンキーも、その延長線上にある、と理解すべきであろう。

ヤンキーの特徴として、難波氏は(1)階層的には下(とみなされがち)、(2)旧来型の男女性役割(男の側は女性に対して、性的でありかつ家庭的であることを求める。概して早熟・早婚)、(3)ドメスティック(自国的)やネイバーフッド(地元)志向、を挙げている。他に、当人たちがそう思っているかは別にして、バッドテイスト趣味、という特徴もある。

原田氏の『ヤンキー経済』の副題に「消費の主役・新保守層の正体」とあるように、彼らのライフスタイル全般に加え、(さほど積極的ではないにしろ)政治意識において保守的である可能性が高い。地元志向は、場合によっては排外主義に結びつく。実際、日の丸や特攻服、場合によってはハーケンクロイツをアイコンとして好んだりする面がある。

ヤンキーの「進化」が示唆するように、ヤンキーと非ヤンキーの間に大きな溝があるわけではない。ヤンキーとオタク、あるいはエリートとされる若者の間にはグレーゾーンがある。バットテイストは、食でいえば「フード右翼」的な嗜好になる。内なるヤンキーは、多くの人々のなかに棲息する。だから、ヤンキーものの漫画や映画は広く人気がある。

『ヤンキー進化論』の最後で、ヤンキー性の高いゼミ生ほど就職に強い、という著者の経験が語られている。『ヤンキー経済』に出てくるマイルドヤンキーは自分たちのコミュニティに閉じこもっている印象ではあるが、主観的幸福度が高い。いずれにしても、現代の日本社会を生き抜くための適応形態なのだろう。その意味で、ヤンキーの進化は終わらない。

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