現代思想 2013年8月臨時号 総特集=フォン・ノイマン ゲーム理論・量子力学・コンピュータ科学 | |
青土社 |
字の小さな『現代思想』は、基本的に読みたくない雑誌なのだが、フォン・ノイマンの特集だからというより、寄稿者と寄稿の興味深さにつられて、つい購入した。ノイマンの主要業績であるゲーム理論、コンピュータ科学、量子力学について、論稿が並んでいる。
ゲーム理論については中山幹夫、小島寛之、竹田茂夫の各氏が論じている。最後の竹田氏は、ノイマンのゲーム理論に対する批判も述べている。3番目の著者が論争喚起的、という点で、コンピュータ科学の部で3番目に登場する池上高志氏の寄稿も興味を惹く。
数学に関心がある人なら、本邦初翻訳のノイマンの講演やゲーデルとの往復書簡が興味深いはずだ。俗っぽいことが好きな人間にとっては、科学技術史家・中尾麻伊香氏の「ノイマン博士の異常な愛情 またはマッド・サイエンティストの夢と現実」が大変興味深い。
中尾氏の寄稿以外に、冒頭の講演録の解題(高橋昌一郎氏)でも、ノイマンが第二次大戦中、米国政府・米軍の中枢の意思決定にいかに深く関わったかが記述されている。彼は、京都への原爆投下を主張する一方で、米空軍が主張した皇居への投下には反対したという。
こうしたノイマンの軍事的提言の背景にあったはずの分析は、この天才に相応しい質を獲得しているのだろうか?そこはワッツのいう高次複雑系で、いかなる天才をしても数学的に扱えず、凡人の意思決定のパフォーマンスを系統的に上回ることは無理なのか?
権力に最も近づいたフォン・ノイマンとは対極の天才数学者もいる。彼らはどんな人たちなのかを垣間見ることができるのが雑誌『考える人』の特集『数学は美しい』である。山本高光氏による円城塔、伊東俊太郎らへのインタビューが数学門外漢にも面白い。
音楽や美術の美しさは、自らにその才能がない凡人にも味わえるが数学はどうなのか。ぼくが仕事に使うような初等数学でも数学の美しさを味わえるのか。そんなことを考えながら、「独立数学者」森田真生氏の「数学と情緒」を読んでみるのもいいだろう。
考える人 2013年 08月号 | |
新潮社 |
フォン・ノイマンに戻る。野崎昭弘氏の寄稿に、ノイマンの業績の1つとして、セル・オートマトンが出てくる。ゲーム理論とコンピュータを生み出したことを考え合わせると、ノイマンこそ、エージェントベース・モデリングの祖ではないか、と思った次第。