Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ISMS@Istanbul

2013-07-17 10:07:56 | Weblog
7/11-13 にイスタンブールで開かれた INFORMS Marketing Science Conference に参加した。反政府デモで大丈夫かと思った時期もあったが、現在のイスタンブールは世界中からの観光客で賑わっていた。参加者のキャンセルも、それほど多くなかったように見える。

今回楽しみにしていたのが Modelling the Behavior of Decision Makers というパネル討論で、立ち見の出る盛況ぶりだった。Tulin Erden が構造推定、Peter Faderが確率モデル、Eitan Mullerがエージェントベースモデル(ABM)、Martijn de Jong が因果推論の立場で登壇。

いずれも大御所による最新の研究動向の紹介で勉強になったが、最も面白かったのが Fader だ。MS の分析はマネジャーに理解される必要があり、Excel で動かせるレベルが望ましいという。MS の研究で定番化しつつある異質性や共変量の導入には懐疑的だ。

Fader はどんなモデルを作るにしろ、単純な確率モデルをベンチマークにして、それより明らかに予測精度が高いことを示すべきと提案する。その場合、単なる予測精度だけではなく、コストを含めたマネジリアルな観点から有意味かどうかが評価基準になる。

ABM を擁護する立場の Muller は、実際に観察されたネットワークをシミュレーションに用いることや、行動実験の分析と併用することを提案していた。 現実への接合を担保する工夫によって、MS コミュニティに受け入れられた事例があるということだろう。

各立場の哲学の違いは浅くはないが、さすがプラクティカルなマーケティング研究者、その問題に合っているならどんな手法でもいい、とパネリストたちは述べる。Erden によれば、構造推定でも均衡を仮定しない研究もあり、経済学とは同じではないという。

パネル討論では最後、どんなモデルを採用するにせよ parsimony が重要だという点で全員が一致していた。これは特に ABM のような自由度の高いモデルにとって銘記すべきことだろう。parsimony は、実務的有用性と理論的優美性の両面で必要だとぼくも思う。

ところで構造推定と関連の深い産業組織論(IO)モデルは、以前に書いたように、欧米の MS でますますさかんになっているが、日本の MS 界では見かけることはない。NYU の石原先生を始め、在米の日本人研究者がこの分野で活躍していることと対照的だ。

UC Berkeley の鎌田先生のように、純粋なゲーム理論家としてマーケティングに取り組む研究者も現れている。神経科学や経済物理学など、他の様々な研究方法論からの参入も予想される。マーケの「中の人」は「一般的に面白い問題」のキュレーションも任務だと思う。

自分の発表はというと "Detecting Influential Consumers in the Twitter Network" というタイトルで、阿部誠先生、新保直樹さんとの共同研究を報告した。まだ予備分析の段階なので結論できないが、自分が抱いてきたインフルエンサー仮説の修正を迫られそうな流れである。

Social Influence, WOM, Social Media 関連のセッションは依然として多い。今回、あまりそれらの研究を聴講できなかったので、最先端がどこにあるか、あまりよくわかっていない。今後、この分野でどういう貢献ができそうなのか、反省的に考えるべきことは多い。