Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

金融工学化する広告技術?~JIMS部会

2012-08-02 12:01:35 | Weblog
7/30 のJIMS「マーケティング・ダイナミクス」研究部会では,総研大の本橋さん,電通大の諏訪さんからそれぞれのご研究については伺った。最初の本橋さんのご発表は「インターネット広告における最新のアドテクノロジーと予測モデリング」というタイトル。

インターネット上のディスプレイ広告については,昨年,今回の研究の共著者でもある磯崎さんに報告いただいている。個別サイトで行っていた広告がアドサーバに集中化され,最近ではサイト側と広告主側に分かれサーバ間の入札が行われているという進化が起きている。

本橋さんの研究は,そうした流れを前提に,広告のクリック率を状態空間モデルを用いて予測しようとする。粒子フィルタリングという高速並列計算可能なアルゴリズムが適用されている。ビッグデータ時代には,データ解析手法もまた「進化」し続けているようだ。

今回のセミナーにはファイナンス領域の研究者も何人か参加されていた。ロケットサイエンティストがウォール街に移り金融工学が生まれたが,彼らの一部がインターネット広告業界に移りつつあるという。そうなったとき広告業界がどう変わり,変わらないかが興味深い。

以下の本が,インターネット広告におけるリアルタイムビッティングなどを理解する上で有用とのこと。

DSP/RTB
オーディエンスターゲティング入門
ビッグデータ時代に実現する「枠」から「人」への広告革命 (Next Publishing)
横山隆治,菅原健一, 楳田良輝
インプレスR&D


後半は諏訪さんから「災害時におけるtwitterデータの活用-中心アカウントの特定とソーシャルサーチの効果-」と題する発表が行われた。データはこの研究会で前回鳥海さんが報告されたものと同一である。3.11前後のTwitterでのRT・返信ネットワークが分析されている。

それによれば次数中心性と媒介中心性には強い相関が見られる。しかし,震災の前後での変化によって分類することで,例外的ではあるが次数に比して媒介中心性が高くなったり,あるいは逆に低くなったアカウントを抽出できる。そのダイナミクスの分析が今後の課題となる。

諏訪さんのもう1つの研究は,このデータを用いてソーシャルサーチの可能性を探るもの。そこでは,ネットワーク上で近い位置にある人々の発言が優先的に検索される。1ホップのつながりならTLを見ていればすむ話だが,2ホップ以上だとそうはいかないので意味が出てくる。

諏訪さんの研究上の立場は「社会情報学」なので,すぐにeコマースとつながるような話ではない。しかし,マーケターにとっては,ソーシャルコマースということばを度々耳にする今日,人と人のつながりの価値をどう見るかはいまだ明解な答が出されていない重要な課題である。