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あるマーケティング研究者の思考と行動

津波と震災

2011-09-03 11:22:47 | Weblog
著名なノンフィクション作家,佐野眞一氏は 3.11 の1週間後,三陸の被災地に取材に向かう。そして書き上げたのが『津波と原発』である。第一部では,言語を絶する大津波でかろうじて生き残った人々の証言が報告される。その内容は TV や新聞の皮相な報道をはるかに超え,胸を打つ。

第二部は,それより1ヶ月あとに行われた福島原発の周辺への取材である。こちらは「見えない」部分が多く,様々な主体や要因が絡んで複雑である。原発を推進した財界人,誘致を積極的に進めた政治家たちが一方的に糾弾されるわけではない。そのような単純な正邪二元論を著者はとらない。

見たくない事実から目を背けることも,誰かに責任を被せて糾弾することも,3.11 という未曾有の衝撃に対する真摯な対応とはいえない。佐野氏が批判するのは,その衝撃があっても何も変わっていない言動,それに対する反省の欠如である。これを他人事と考えた時点で自分も終わっている。

いずれにしろ,この本は一気に読ませる。著者の筆力には(いつもながら)感心する。

津波と原発
佐野眞一
講談社