2年前に出た本だが,いまだに本屋で平積みされているベストセラー。その理由は読むとよくわかる。高校生向けへの講義をベースにしているから読みやすい,というだけでない。視点が非常に面白いのだ。すなわち,歴史の特定局面で,当事者としていかに意思決定すべきかを問う視点である。
それは,ビジネススクールの教育で用いられる「ケースメソッド」と同じ発想である。ある目的のもと,当時利用可能であった情報を前提に,どういう行動を選択すべきであったかを議論し,今後の教訓を得る。したがって,本書はビジネスパーソンにとっても非常に興味深い内容となっている。
歴史を必然性が支配するものとみなし,われわれがすでに知っている「結末」を導く壮大で一貫した物語を紡ぐことはそれなりに楽しいが,今後の意思決定には役立たない。もちろん歴史は集合現象なので,その帰趨にどこまで個人が影響を及ぼし得るかは,簡単には決着がつかない論点である。
本書を読んで意外だったのは,少なくとも日清~日露戦争の頃までの日本の外交や戦争は「戦略的」であったと海外の研究者から評価されているという点。一方,満州事変や日米開戦といった意思決定が戦略的であったとは言い難い。では,その間にどういう変化や断絶があったのか・・・。
明治維新直後の戦略は,不平等条約を改正するために,列強と対等な帝国主義的なプレイヤーとしての地歩を固めることであった。それがある程度実現したあと,日本の安全保障の概念はさらに肥大化していった。と同時に,そもそも国家として戦略を共有するプロセスに問題が生じたともいえる。
それほど歴史書を読んでいるわけではないので「類書にない」というのは憚られるが,細々した事象を叙述するのではなく,戦略や意思決定という視点から歴史を分析する本書は文句なしに面白い。歴史における「もしも」を考えることで,われわれはよりよい未来を生きることができる。
それは,ビジネススクールの教育で用いられる「ケースメソッド」と同じ発想である。ある目的のもと,当時利用可能であった情報を前提に,どういう行動を選択すべきであったかを議論し,今後の教訓を得る。したがって,本書はビジネスパーソンにとっても非常に興味深い内容となっている。
それでも、日本人は「戦争」を選んだ | |
加藤陽子 | |
朝日出版社 |
歴史を必然性が支配するものとみなし,われわれがすでに知っている「結末」を導く壮大で一貫した物語を紡ぐことはそれなりに楽しいが,今後の意思決定には役立たない。もちろん歴史は集合現象なので,その帰趨にどこまで個人が影響を及ぼし得るかは,簡単には決着がつかない論点である。
本書を読んで意外だったのは,少なくとも日清~日露戦争の頃までの日本の外交や戦争は「戦略的」であったと海外の研究者から評価されているという点。一方,満州事変や日米開戦といった意思決定が戦略的であったとは言い難い。では,その間にどういう変化や断絶があったのか・・・。
明治維新直後の戦略は,不平等条約を改正するために,列強と対等な帝国主義的なプレイヤーとしての地歩を固めることであった。それがある程度実現したあと,日本の安全保障の概念はさらに肥大化していった。と同時に,そもそも国家として戦略を共有するプロセスに問題が生じたともいえる。
それほど歴史書を読んでいるわけではないので「類書にない」というのは憚られるが,細々した事象を叙述するのではなく,戦略や意思決定という視点から歴史を分析する本書は文句なしに面白い。歴史における「もしも」を考えることで,われわれはよりよい未来を生きることができる。