Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

行動計量学会@岡山理科大学

2011-09-15 09:00:35 | Weblog
社会情報学会が終わると今度は岡山に移動し,行動計量学会へ。日程の都合上,初日しか参加できなかったが,お目当ての特別セッション「人間行動と物語」は期待通り刺激的であった。最初に竹村和久先生(早稲田大学)が「動的フレームとしての物語と意思決定」と題する報告。

最初に以下の本が紹介される。「鶴の恩返し」のラストシーン(姿を見られた鶴が去っていく)を外国人は理解できないが,そうした「物語」を繰り返し聞いてきた日本人には,それが日常の行動に潜在的に影響しているのではないか。つまり,物語とは動的なフレーミング効果であると竹村先生は考える。

日本人の〈原罪〉 (講談社現代新書)
北山修,橋下雅之
講談社

そこで竹村研究室で蓄積されてきた知見が動員される。上述の考えを数理モデル化すべく,言語表現であるフレームが焦点を決めるという設定で状況依存型焦点モデルを適用。さらに画像の解析に用いる特異値分解に基づくデータ解析。着々と研究が進められているようで今後が楽しみである。

二番手は羽鳥剛史先生(愛媛大学)による「物語と選好形成」。「選好形成」をモデル化する際「選好の選好」(二次選好と呼ぶ)を仮定することが多い。そうした見方は,Schelling (self-comand), Sen (Ranking of Ranking), Hirshman (反省的選好変化) 等によってすでに提起されているという。

羽鳥先生の発表が面白いのは,すでに実験が行われていることである。簡単にいうと内村鑑三の『代表的日本人』を通読させると二次選好が影響を受け,被験者の傲慢性が低下するという結果が得られた。物語は人々に特定に行動を起こさせる力を持つ。その効果がどれだけ持続するかが気になる。

最後に藤井聡先生(京都大学)が「意思決定における物語の役割」と題する報告で,心理学の流れに物語の役割を位置づける。言及されるのは Brunner,Slovic,Gergen & Gergen,Schank & Abelson,Gibson 等々。心理学で扱ってきた態度も信念もイデオロギーも,つまるところ物語だと。

藤井先生はそれをたった1枚のスライドで猛烈な勢いで熱く語る。気になったのは,Akerlof ではないが,経済政策に関する議論も物語だというと一種の相対主義に陥り,論理実証的な議論がなされなくなるのではという点。それについて,自ら政策論争にも関与されている藤井先生に尋ねてみた。

藤井先生のお答えは,多くの経済学者は自己の依拠する「物語」を自覚しておらず,まずそこを明らかにすることに意義があるということ。もう1つは,もちろん論理実証的な議論は必要で,それは人々を熱狂させはしないが,熱狂を抑制させることがリスク心理学の研究でわかっているということ。

物語と意思決定の研究はまだ着手されたばかりのようだが,大いなる可能性に富んでいると感じた。物語的な意思決定と事例ベースの意思決定の関係など,いろいろな論点が頭を駆け巡る。残念ながら岡山はここまで。・・・次の目的地は,早稲田大学理工学部で開かれる SICE2011 である。