Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

社会経済物理学とは何か?

2011-04-29 15:09:11 | Weblog
以下の書籍のタイトルだけを見ると,標準的な経済学の教科書のようにも見えるが,副題の「社会経済物理学とは何か?」が示唆するように,経済物理学,進化経済学,進化ゲーム,エージェントベース・モデリング,複雑系といった「非標準的」な経済学/社会科学の網羅的な解説書になっている。

50のキーワードで読み解く 経済学教室
青木 正直, 有賀 裕二 , 吉川 洋, 青山 秀明 (監修)
東京図書

*書店に並ぶのは連休明け。アマゾンで予約受付中・・・

一方で,これまで出版されてきた複雑系の概説書とも少し趣が違う。従来あった,たとえばサンタフェ研究所での研究成果を紹介するというトップダウン的方向ではなく,日本の研究者がそれぞれの持ち場で探求してきた成果を紹介するというボトムアップ的方向になっている。この差はけっこう大きい。

扱われている分野は幅広い。監修者の顔ぶれから想像されるマクロ経済学やファイナンスに関わるテーマだけでなく,エネルギー問題や交通渋滞といった現実的課題から文化の進化のような話題まで網羅されている。確率過程,ゲーム理論,ネットワーク,時系列分析といった方法論の紹介も有用だ。

マーケティング関連では「ランチェスターの法則」やeコマースにおける一物一価の不成立などが取り上げられている。ぼく自身も「ロングテール・ビジネスモデル:アマゾン成功の秘密」を寄稿した。どれも聞いたことがあるがよくは知らない,しかし知っておくと何かに役立ちそうな話題である。

複雑系的なものに一定の知識を持っているつもりだったが,本書が取り上げる50のキーワードには初めて耳にするものが少なくなかった。したがって,本書は輝く未来のある学生だけでなく,すでにいろいろ知っているつもりの研究者にもお薦めできる。未知の概念・手法との遭遇が待っている。