Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

日本カープ学会設立!

2011-04-25 22:53:54 | Weblog
先週の4月22日,日本カープ学会の最初の研究大会が明治大学の駿河台キャンパスで開かれた。集まったのは総勢8人の研究者。それぞれの専門は,経営学,マーケティング,歴史学,統計学,情報工学・・・平均年齢は(たぶん)30代前半という若さ。広島出身者は半分と文化的多様性に富む。

・・・というのを読んだ方が誤解すると困るので正直に述べておくと,これまで何度も神宮球場で広島カープを応援し続けてきた研究者たちが,そのエネルギーを「本業」にも向けるべく,ささやかな研究会を催したというのが真相である。ということで当面仲間内でクローズドでやるつもりだ。

さて,トップバッターの筑波大学・生稲さんは「地域と支え合う プロスポーツ ―GBパッカーズの事例」という報告で出塁。グリーンベイ・パッカーズとは NFL で前回優勝し,過去も最多優勝を誇る強豪チーム。資産や収入ではNFLの平均に近い。なぜこのチームに注目するのだろう?

グリーンベイは,五大湖に接するウイスコンシン州にある人口10万の小都市だ。元々缶詰会社が所有していたのでパッカーズなわけだが,その後手放されて財政難に。1923年以降,全株式を市民が所有する形で存続してきた。このような経営形態は,米国のプロスポーツでは稀有といえる。

地方都市のチーム,親会社を持たない・・・という点で広島カープと似ているが,カープは市民によって所有されているわけではない(かつて,樽募金を通じて,市民の寄付を募った歴史があるにせよ)。そしてなによりも,ずっと強さを持続しているかどうかが,まるっきり違っている。

GB パッカーズは単なる例外なのだろうか? 次いで稲水さん(筑波大学)が『地域スポーツクラブが目指す理想のクラブ マネジメント:ソシオ制度を学ぶ』という文献を紹介。ソシオ制度とはファンの非営利会員組織で運営する仕組みで,バルセロナやレアルマドリードも採用している。

地域スポーツクラブが目指す理想のクラブマネジメント
ソシオ制度を学ぶ
谷塚徹
カンゼン

FC バルセロナの定款の第1条では「バルセロナサッカークラブはカタルーニャのスポーツ協会で、民間の非営利法人 」と謳われている。第6条で「正式な言語はカタルーニャ語であり、すべてのクラブの活動では カタルーニャ語が言語として使用されることが望ましい」とあり,地域色が濃厚だ。

この組織形態が,ファンが株式を所有するGBパッカーズの例とどこが同じでどこが違うかは,厳密に議論されなくてはならない。しかし,大きく捉えれば「ファン(市民)管理型企業」であることから,そこを本質とにらんで掘り下げていくべきだと,組織論の門外漢であるぼくは思ってしまう。

では,広島カープが学ぶことは何かあるだろうか?前述のようにカープは「ファン(市民)管理型企業」ではない。カープには「樽募金」のような一種の市民参加の歴史があり,それが「市民球団」というイメージを生んでいるが,実際の企業統治に市民やファンは組み込まれていないのが現実だ。

カープがまず学ぶべきことは,GBパッカーズやバルサが一見非営利主義的な経営形態をとりながら,なぜ確固たる財政基盤を築いて,最強チームとしての地位を維持し続けているかであろう。それは最終的には企業統治の問題に帰着するかもしれないが,とりあえずは戦略の問題として考えたいと思う。

最後にぼくが,今年卒業したゼミ生(井上君,溝口君)の卒論から,NPB 各チームの観客数や勝率のような基礎データ,ファンサービス,地域密着活動を紹介した。また,偏見と独断の文献解題を行った。野球は観戦する以上に研究することが楽しいのでは・・・と思ったりした夜であった。