Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

選択の統一理論を夢見て

2009-12-22 08:04:31 | Weblog
先週,行動経済学会の発表を終えたあと,いくつかの校務をこなし,適宜「休養」をとりつつ,今年最後の大仕事である筑波大での集中講義の準備をしてきた。初回の23日(明日!)は「消費者選択モデルと限定合理性」について75分×3回話す。離散的(確率的)選択モデルの入門から始めて,文脈効果に代表されるアノマリーや非補償型選好へと話を進める予定。過去に大学(院)や社会人向きに講義した際には,データへの適合(パラメタ推定)や実務への応用を中心にしゃべってきたが,今回は主従を逆転させる。

今回の受講者は,おそらく理工系を中心に一部文系も含む,幅広い専攻の学部(学類)学生と院生だろう。みんなが統計学の知識を持っている保証がないので,最尤法だ,階層ベイズだという話題には深入りしない。実務家ほどは,マーケティングデータを分析し,仕事の意思決定に役立てたいという切迫した要請もないだろう。だから,実務的応用の代表例であるコンジョイント分析の話も省略しようかと思ったが,さすがに行き過ぎだと思い直し復活させた。標準的選択モデルの限界を議論するうえでも,あったほうがいい。

そのあといよいよ,非補償型の選択ルールや文脈効果に関する有名な研究を紹介する。いずれも天才 Tversky が「発見」した選択モデルのアノマリーなのだが,それらを統一的に説明する理論モデルは,ぼくの知る限りまだ存在しない。最後に触れる予定の Payne, Bettman らの constructive processing approach も,残念ながら文脈効果まではカバーし切れていない。行動を予測するだけなら線形効用関数(補償型ルール)が包括的だが,それが消費者の認知プロセスを記述しているとは,ぼくにはどうも思えない。

そこに理論上の大いなるフロンティアがあると思うのだが,今回の講義で,それを具体的に語ることはできない。博士課程在籍中の初期に,そのようなことを考えていた時期もあったが,結局そこまで到達できなかった。その後もほとんど何もしておらず,初回の講義で,自分の研究を紹介する場面はほとんどない。その意味で,今回の講義は自分が置き忘れてきた重大な宿題を,再び意識の中心に取り戻す機会と位置づけている。実際,講義すると集中力が高まるためか,ふだんにはない気づきが得られる経験が何度かある。

最も楽しみなのは,受講者や関係者との交流だ。昨年の池上先生の集中講義では,遠路東京から聴講に来た学生を含め,講義のあと,何人かの教員や院生とともに飲み食いしながら議論した。池上さんとは比べるべくもないが,それでも意欲的な学生や院生が参加し,授業中/外で議論できるとうれしい。そこでぼくが何かを学ぶだけでなく,そういう問題があるなら自分が解いてやろうと思うような,野心的で能力のある若手に問題意識を伝えることは,なまじっか自分独自の研究を追求するより建設的かもしれない。

さて,どうなるか・・・ まだ,明日の講義の準備は完全に終わっていない。なお,選択モデルの課題として,もうひとつ重要な社会的相互作用については,次回に取り上げる。それは1月6日なので,そちらの準備も早々に進めなくては。