Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS@電通ホール(汐留)

2009-12-06 17:59:58 | Weblog
昨年に引き続き,日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)は汐留の電通ホールで開かれた。今回の特別テーマセッションは「社会的相互依存とイノベーションの普及」。全部で7件の研究が,パネルディスカッション形式で報告される。ぼく自身も共同研究「新製品普及プロセスにおけるクチコミ伝播と選好形成の動的相互作用」を発表した。これは,昨年度2回にわたり調査した,ある企業での iPhone に関する会話ネットワークと採用状況を,エージェントベースモデル(ABM)で再現しようとしたもの。

ディスカッションで,堀先生から投げかけられた「実務的な含意は?」という直球のコメントがずしりと響く。いや,それは今後の課題だが,こんなことがわかった,と返答できればまだよかったのだが・・・。現段階では,データにあてはめ,得られたパラメタでモデルの振る舞いを少し調べただけである。片平先生から懇親会で「面白いような面白くないような研究だね」というコメントをいただく。ぼくとしては,このことばをポジティブに受け取ることにする。つまり,今後頑張ればもっと面白くできる,と。

同じセッションで報告された,中山雄治,小澤純「人工市場を用いたネットワーク外部性とサービス普及の分析」や,自分の部会で報告いただいた,北中英明他「消費者の広告想起とブランド購買意図の形成における消費者間相互作用の影響について」を加えると,計3件のABMを用いた研究が報告されたことになる。これは,過去最大かもしれない。ぼくが聴いた範囲で,MCMC を用いた研究は3件であったから,ABM はマーケティング・サイエンスの方法論として定着してきたのか・・・。

いや,それはいいすぎだろう。この学会の中核的な人々からほとんど質問もコメントも出なかったことが,ABM に対する評価を象徴している。ABM が新たな手法として認知されるためには,もっとインパクトのある研究が出てこないとダメだ。それには,データに当てはめるだけでなく,こうした手法でしか説明できない現象を提示する必要がある。その点で,データから明確な規則性を見いだすことから出発する経済物理学のやり方から学ぶことは多い。よくいわれるように,まずチコ・ブラーエが必要なのだ。

それとともに,物理学者がよく行う平均場近似のような数理解析をきちんと行うことや,最尤法やMCMC,あるいはデータ同化のような既存の統計的手法をできる限り活用する努力も必要だ。前者はさすがにぼくの手に余るが,後者は少しぐらいならできるはずだ。いずれにしろ,数理や統計に強い研究者が共同研究を申し出てくれるぐらい「面白そうな,そして実際にも面白い」テーマの発掘が望まれる。それがおそらく,Toubia と Goldenberg たちの間で起きた「化学」なんだろうと思う。

昨日の夜,盛り上がりすぎたせいで今日は遅刻。阿部先生,芳賀さんの発表に続き,自分の部会の概況報告と戸谷圭子「サービス業における内部顧客(従業員)と外部顧客(顧客)の相互作用の研究」のコメント。外発的動機づけを求める従業員に権限委譲すると,かえって職務満足が下がるという交互作用が面白い。これこそ,金融業界の問題なのだと戸谷さんは指摘する。話は変わるが,このお三方に共通するソフトな語り口のプレゼンに,自分はもっと学ばなくてはならないと感じた。