Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS@電通ホール(汐留)

2008-11-30 18:33:02 | Weblog
昨日から2日間,日本マーケティング・サイエンス学会@電通(汐留)に参加した。受付で驚いたのが,細見さんと10年ぶり?くらいにお目にかかったこと。それはともかく,今回は両日とも参加でき,多くの研究を聴いた。日本のマーケティング・サイエンスは,米国ほど経済学の影響を受けていないが,今回はそのよい面を感じることができたように思う。つまり,研究の自由度を広く,かつ実務志向である点だ。

ぼく自身が主に聴講したのは,エンタテイメント消費に関する研究である。岩崎「テレビ番組のプログラム価値マップ」や小野田「社会的期待-一致/不一致モデルに基づくアスリートの評価分析」,石田「交互作用距離による音楽CDの購買予測」,野島「オンラインサービスによる継続利用の促進」など,いずれもデータに即した興味深い分析を展開していた。

そこから共通に浮かび上がるのが,エンタメ製品のライフサイクル管理というテーマだ。エンタメはまさに「生きもの」で,その価値は時代の文脈のなかですぐに変化する。そこから何らかの再現可能なパタンを見出して,経営に役立てることができるか。どんなマーケティング政策が有効か。多くの発表者がそのあたりも視野に入れているように見受けられ,今後が期待される。

実務的な含意を語ることは「科学」の範囲を超えてしまいがちだが,それがないと,全く意味がない研究になってしまう。マーケティング・サイエンスは単なる応用統計学でも応用経済学でもない。そのことがわからない人が実務家にもいたりするから,話がややこしい。米国のマーケ・サイエンス学会では豪華絢爛たるモデルが披露されるが,so what? で終わってしまっては意味がない。

そういう轍を踏まないのが本物の理論家で,星野「状態空間時系列モデルの階層ベイズによる拡張と広告効果の推定」がまさにそうだろう。その恐ろしげなタイトルにもかかわらず,実務的な問題をしっかり把握し,先行研究をきっちりおさえ,高度な手法をテクニカルな話題に深入りすることなく報告している。懇親会で星野さんと「塩漬け中」のプロジェクトについて,ちらっと意見交換。

個人的に印象深かったのは,古川「反日感情下のマーケティングの課題」だ。中国の消費者は,社会的な規範としての反日感情に強く縛られながらも,実際には日本ブランド(日本車)を買うことが少なくない。その二重性の秘密を,グルインのテキスト分析などを手掛かりに探ろうとしている。中国の消費者行動は独特だが,決して神秘のベールに覆われているわけではない。

古川さんによれば,日本企業のいくつかは,日本的な丁寧なサービスを中国市場に持ち込むことで成功しているという。日本企業はモノづくりだけで,マーケティングは下手という意見があるが,必ずしもそうではない,ということか。こうした日本企業の強みを,日本特殊論に陥ることなく論理的に解明していけば,日本のマーケティング・サイエンス独自の貢献ができるのではと思う。

今日の午前中,森さんとともに「次世代新製品に関する情報伝播と選好形成」を発表。ある企業での,iPhone に関する組織内会話ネットワークと態度変容について,記述的な分析を報告した。コメンテータの中島先生をはじめ,何人かの方から貴重なアドバイスをいただく。分析されていない変数は山ほど残っており,これからいろいろな分析ができそうだ。

休憩時間や懇親会で,多くの人から新しい職場について質問を受けた。その都度いろんなことをいったが,正直,まだ何もわかっていないのだ。昨夜は久しぶりに「JIMSらしい夜」だった。つまり,二次会~三次会を経て,タクシーで深夜帰宅。片平先生からは,現状に安住することがないようにと釘を刺される。気持ちとしては直立不動で聞く(実際はへらへら飲んでいた)。

研究大会の最後に,大西さんがミシガン大でのカンファレンスの宣伝をしていた。1月30日がアブストラクト締め切りだ。場所には全くそそられないが,純粋に勉強のために行くべきか…。