Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

クロスメディアと大学のカリキュラム

2008-11-15 22:27:26 | Weblog
 ネットユーザーに拡がるクロスメディア消費の正体とは?

CNET Japan で紹介された調査によれば,家電製品の購入について,実際の店舗で買った人より,インターネットで買った人のほうがインターネットで「十分な時間をかけて探した」だけでなく,実際の店舗で「十分な情報収集を行った」と答える比率が高い。つまり,インターネットで購買する人は,リアルな店頭を含むあらゆる場面で情報収集意欲が高いということだ。この記事では,これを「クロスメディア消費」と名づけている。

つまり,情報収集意欲が高い→ネットとリアルの双方で活発な情報収集→ネットで最も価格の安いところを調べて購入,という人々がひとかたまりになっている。そして,逆にいえば,さほど情報を収集せず,リアルの店頭で店員の推奨にしたがってエイヤで買ってしまう消費者のかたまりもある,ということだ(ぼくはどちらかというと,そのタイプである)。もちろんその両極の間に多くの人々が分布している。

情報収集意欲の高い人々のためにこそ,クロスメディアが効果を発揮する,と期待されがちだが,彼らにとってメディアは与件ではなく,選択の結果だということに注意する必要がある。つまり,環境や対象の変化に対して,彼らは敏感に情報収集や購買行動を変える可能性がある。したがって,過去の行動履歴をマイニングして,そこで抽出されたパタンに合った対応をすればよい,というわけには必ずしもいかない。

そこで思い出したのが,昨夜,前の職場の同僚たち(半数はすでに他の大学へ転出)と交わした会話である。前の大学のカリキュラムは,理工系ということもあり科目間の前後関係を細かく考えて構成されていた。しかし,規模の大きな大学の文系学部では,教員と教室の都合を満たしつつ,そのような調整を行うことは不可能だ。したがって学生は,サラダと肉料理のどちらかしか選べなかったり,デザートを最初に食べたりすることがあり得る。

しかも学生たちは,毎回規則的に授業に出てくるわけではない。バイキングのように,お好みのものを適当につまんでいく。文系の場合,それでも力のある学生は何とか卒業して,就職先でばりばり活躍する。なかには知的リーダーとして成功する者も出てくる。結局,胃のなかで混ざってしまえば,何をどういう順序で食べたかは問題ではない。一定のカロリーと栄養素が摂取されてさえいればよいのだ。

つまり,知識を階層的に整理し,その秩序に従って系統的に吸収させるのではなく,ほぼランダムに様々な知識へ遭遇させ,各人に自在に編集させるのが文科系のやり方だ。そして偏差値が高い大学では少なくとも,そのやり方は成功しているように見える。同様に,情報リテラシーの高い消費者には,緻密にデザインされたクロスメディアより,無作為に近いクロスメディアのほうが効果的なのではないかと思わせる。

それは昔ぼんやりと考えていた,個人の過去の情報を全く使わないでカスタマイズされたインタラクションを行う,というコンセプトとどこかでつながる気がする。