Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

影響伝播と異類性

2008-04-17 08:09:21 | Weblog

JIMS 部会。まず,大阪からいらした松村さんが,IDM (Influence Diffusion Model) の最新研究動向を発表。このモデルは,CGM での発言の継起関係から,発言,人,語の影響力を計算する。方法論,適用領域とも進化を続けており,今回はブログへの適用研究とともに,影響力の測度にカイ二乗基準を導入する提案もなされた。

IDM をブログでの某製品に関するクチコミに適用した研究によれば,この方法で推定される個人の影響力は,ネットワークの次数(被リンク数)よりも的確にインフルエンサーを識別する。また,語の継起関係をネットワーク図で表すことで,特定のコンセプトがどういう流れで活性化するかを理解できる。

元来,IDM は掲示板や ML でのコメント(レス)のように,発言間の継起関係が明確なデータに適用されていた。今回の研究では,ブログ間のリンクとトラックバック関係を前提に,それぞれの発言の間の影響関係を推定している。こうした応用上の拡張によって,将来は CGM の世界を超えた展開が可能になりはしないか,と期待。

次いでヒカルさんが,クチコミの生起メカニズムを探求した研究を発表。お互いに特性が似た個人間でクチコミが発生しやすい(類同性)のか,その逆(異類性)か,あるいはその中間に最適点があるのか(最適異類性)という問題意識を,質問紙調査で検証している(学会未発表のため,「結末」は伏せておこう)。

類同性/異類性といっても様々な次元が考えられるが,この研究では特定カテゴリへの知識量の差=情報格差に焦点を当てている。それ以外の異類性は対象者設定とコントロール変数で処理されているが,そこにもまた最適点があるのか(つまり二次関数なのか)・・・そうか,このことも質問すればよかったかな。

さらに,クチコミの発信を行うのに,その対象が社会でどれくらい認知されているかの主観的な期待値がどう影響するかが分析された。集計レベルの分析では,その閾値はかなり高いことがうかがえる。これは,周囲の普及率への反応の連鎖をモデル化した voter model の研究にとっても,興味深い観点を提供している。

現実の認知率と,各個人の主観的な期待値には系統的なバイアスがありそうだ。つまり,実際の普及率が高いものは低めに思い,低いものを高く思う。こうしたギャップがなぜ生じるかに加え,どういうインパクトを持つかも興味深い。また,従来のオピニオンリーダとは違う,情報の早期発信者の類型があるのではという予感もする。

この研究の背景には,少数のリーダー(インフルエンサー)がクチコミの生成を支配しているという通念への疑問がある。それは,Watts らの最近の議論とも軌を一にする。現代社会は,なだらかに異質な個人が,きめ細かく結びついている。局所に捉われず全体を見ることの重要性が示唆されている。

これらの研究を聞き,クチコミ研究は,Lazarsfeld や Rogers といった先駆者たちが確立したパラダイムを超えて,新たなステージに向かいつつあるのはないかという感じる。二次会出席者は,ぼく以外おそらく全員20~30代だ。かなり遅くまで盛り上がる。若い研究者たちのパワーとスピードについていけるか・・・。