Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティングの真理?

2007-09-26 23:44:19 | Weblog
かなり以前の話。「マーケティングとは,真理を探究することだ」という職場の先輩のことばに,駆け出しのぼくは大いに感銘を受けた。膨大な情報を徹底的に解析していくと,最後に Aha! の瞬間があって「真理」が顕現する・・・いつかそんな経験ができるのかと胸を躍らせた。一方,そう語っていた先輩は,その後どういう真理を発見したのだろうか・・・。

時が経って,いまやマーケティングの職業的「研究者」を自称する立場になった。「研究」というからには,何らかの「真理」を追究していると見られてもおかしくない。真理とは何だろう・・・科学の立場からは,再現性のあるパタン,というのが一つの答えである(もちろんそれは,まだ反駁されていない限りでの再現性だ)。

では,マーケティングに「再現性のあるパタン」はあるのか? 思いつくのは「ブランドの二重苦」や「パレートの法則」だ。現実にはいくつもの反例があるとしても,これらの命題は,比較的再現性が高かったのではなかろうか? もしマーケティング研究者が真理探求を望むなら,このようなシンプルな規則性を持つパタンを探すことから始めるべきであろう。

DHBR6月号で,Jeffrey West が組織規模と知的生産性の間にベキ則(power law)が成り立つことをパワーコンセプトに挙げている。ベキ則はシンプルで美しいパタンであり,物理学者が好んで発見しようとする。だが,経営学的にはそこから先が難しい。この発見に基づいて,小さな組織のほうが革新的だという俗説を戒めるのはよい。しかし,組織の知的生産性を上げるには,組織の規模を大きくすればいい,とまでいってしまうと,おいおい,そんな単純じゃないぞ,ということになる。

このような応用上の難しさがあるとはいえ,再現性のあるパタンを探求することは,経験科学の基本的態度として大変重要である。で・・・自分の現実を振り返ると,そういう理想と程遠い状態にある。今日の午前中は「サービス」プロジェクトのための調査設計の打ち合わせ,午後は授業の教材用の調査票作成で終始した。手をつける時間がなかったが「クルマ」プロジェクトの調査票改訂も控えている。だが,こうした調査から,いずれ,何らかの再現性の高いパタンが発見されるだろうか・・・それが難しく思えるのは,ほとんどの調査項目がアドホックだからだ。

「真理」を探りたいなら,定型化された質問を「場をわきまえず」ありとあらゆる調査で繰り返し,その結果から頑健なパタンを探さなくてはならない。しかし,それは学術的には価値があったとしても,実務的には必ずしもそうではない。当然ながら状況次第で聞きたい質問は異なる。学術よりの調査ですら,その時々の最重要課題に合わせて,アドホックな部分を増やさざるを得ない。「二重苦」を発見した Ehrenberg は調査会社を所有していたから,同じ項目の繰り返し調査ができたと聞いたことがある。

ということは,調査会社を持たない市井の研究者は,「真理」を探究したければ,質問紙調査より,POSとか顧客DBのような反復性の高いデータを分析したほうがいいのだろうか。そういえば,某サイトの購買履歴データを分析する話もある・・・。だがそれに取り組む以前に,すぐに作るべき調査票がいくつかあり,さらに何と,自分が回答すべき教育・研究業績に関する「調査票」がある。調査票地獄・・・。