Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

大学院進学の流動化

2007-06-04 13:14:53 | Weblog
教育再生会議が,大学院入学者のうち自校出身者比率を30%以下とする提案をしている。これについて,今朝の日経に電通大の益田隆司学長が寄稿している。確かに米国では,学士,修士,博士を取得した学校が別々なのは珍しくないし,教員の採用でも自校出身者を制限している。実はこの点で,中国も米国を見倣っているという。益田氏は,再生会議のようなハードなやり方ではなく,特別研究員の応募資格を内部進学者には与えないといった,ソフトなやり方を提案している。

原点に立ち戻って考えると,出身校以外の大学院に進学する学生が増えることで,どんないいことがあるのだろうか。益田氏は,学生の視野が広がり,優秀な人材が育つことをあげる。確かに視野が広がるかもしれないが,それだけがメリットなのだろうか。おそらく,学生が大学間で活発に移動することで,大学間の競争が刺激される,という期待もあるだろう。これまでも他校への進学はあったが,少数例に留まるため,「無理矢理」加速しようとするのが,教育再生会議の提案だと考えられる。

問題は「無理矢理」がいいのかどうか。上からの強制で,期待したような成果をあげられるだろうか。米国では,学生は進んで大学を移動し,大学も自らの方針として多様な出身校の教員を抱えている(はずだ)。お互いの行動原理が補完的なのである。日本では,お上が強制的に「流動性」を導入しようとしている。米国モデルが正しく,都合のいい部分だけ切り出して移植できるならいいが,果たしてそんなことは可能だろうか。

益田氏も指摘するように,有名大学では,自校の院に進学できないなら就職するという学生も出るだろう(そういう学問へのモチベーションが低い学生は進学しなくて結構,と言い方もあるかもしれないが・・・)。日本社会では現在でも「学位」より「出身大学(学部)」が重視されている(その典型が,日経「経済教室」の経歴紹介だ!)。こうした日本的土壌のなかで,ある部分だけ米国化させても,必ずしも期待通りの成果は得られない。

有名校にできた「空き枠」は他校出身の学生が埋める。そしてその連鎖反応で,志願者が集まらない大学院は崩壊する・・・。もちろん,提案されている制度によって,大学間で学生の水平的な移動が全く増加しないわけではない。しかし,米国ほど様々な一流大学が並び立つわけではないから,有名校での大学院進学者の減少あるいは海外流出は避けられないだろう。教育再生会議の狙いが,米国のような状況にしたいのだとしたら,順序が逆ではないだろうか。大学の水平的差別化を実現する前に大学院進学者の流動化を図るというのは,文革時の「下放」を思い起こさせる。