ジェシ・ウィンチェスターといえば、一般的にはジェシ自身の名前を冠した1STを想起し、フェイバリット・
アルバムに挙げる人が多いだろう。私は72年にリリースされたセカンド・アルバムが一番好きだ。
大抵のガイド本には1STが大々的に取り上げられて、それで完結しているのだがジェシはこの
2枚目以降も素晴らしいアルバムを多く残している。
エイモス・ギャレットのギターに耳を奪われるのは当然として、まずはジェシ自身の暖かい声と素敵な
メロディーに心惹かれるはずだ。アルバムのプロデュースはジェシだが全13曲中3曲をトッド・ラングレンが
プロデュースしている。その中の1曲『MIDNIGHT BUS』こそ、私のフェイバリット・ナンバーである。
その『MIDNIGHT BUS』を74年にカバーしたのが、チリ・ウィリ&ザ・レッド・ホット・ペッパーズ。
パブ・ロックの範疇で語られることが多いこのバンドは、元マイティ・ベイビーのマーティン・ストーン、後に
レジデンス絡みで名前を見ることが多くなる、スネイクフィンガー・リスマンを中心にスタートしたバンドで
今作には後にアトラクションズのメンバーになる、ピート・トーマスの名前もある。
彼らの1STは幾分ブルーズ色が強かったが、今作はカントリーやジャイヴの要素が強く、ダン・ヒックスの
サウンドを英国の粋な趣味人達が英国風に再現したといえばわかりやすいか。何が豪華かというと、
「THE PEPPERETTES」と名付けられた女性コーラス隊には、ジョ・アン・ケリーやキャロル・グリムス、そして
ペンタングルのジャキー・マクシーが参加していることだ。英国ロック好き、パブ・ロック好きが避けて
通れないバンドであることが、お解りいただけよう。
そんな彼らの演奏する『MIDNIGHT BUS』は、ほぼオリジナルに忠実だが幾分テンポが早く演奏される。
ジェシのバージョンが大陸を横断するような長距離ドライヴを思い起こさせるのに対し、チリ・ウィリの
バージョンは幾分ドライヴ時間が短いように思わせるのは、頭の中で英国と北米の面積を比べてしまった
からかもしれない。ここでの演奏は男4人時代のフェアポートを想起させもする。
『MIDNIGHT BUS』が取り持つ縁かもしれないが、私はこの2枚のアルバムをこよなく愛している。
粋人と呼ばれるには、程遠いのだが。(笑)