ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/11/18 顔見世大歌舞伎昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」

2007-11-22 23:59:15 | 観劇

顔見世歌舞伎昼の部の幕間に舞台写真を見に行くのに3階の上手側から階段を降り、1階席の一番前の通路を通って下手の売店に行こうとしたら、アレ?仮花道があるぞ?そうか!「御所五郎蔵」で使うのかぁと思うくらい、歌舞伎座では初めてなのだった。浅草で「五條仲之町の場」しか観ていないのだ。その前の「時鳥殺し」の場はないが、歌舞伎座ロビーに置いてある『歌舞伎座掌本』に説明があったのを読んでおいたのが役に立った。
浅草歌舞伎で観た「御所五郎蔵」七之助・男女蔵版獅童・愛之助版
今回は皐月への愛想尽かしとか逢州殺しの場面があるのを楽しみに観た。

【曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵】
御所五郎蔵:仁左衛門 皐月:福助
逢州:孝太郎 星影土右衛門:左團次
新貝荒蔵:権十郎 二宮太郎次:松江
畠山次郎三:男女蔵 秩父重介:由次郎
梶原平蔵:友右衛門 茶屋女房おわさ:鐵之助           
甲屋与五郎:菊五郎

あらすじは以下の通り。         
舞台は京の五條坂の遊郭の仲之町。侠客の御所五郎蔵が子分を従えて仮花道から登場。剣術指南の星影土右衛門が門弟を従えて花道から登場。両花道を使った渡り台詞をきかせてから舞台で鉢合わせ。土右衛門の門弟たちが五郎蔵の子分たちに痛い目に合わされた遺恨から一触即発となる。そこに茶屋甲屋の与五郎が留男となってその場を収める(座組みによっては留女になるらしい)。
五郎蔵と土右衛門は同じ浅間家の武士だった。五郎蔵は腰元の皐月と恋仲だったのを横恋慕する土右衛門に不義とあばかれて暇を与えられ、土右衛門も皐月のあとを追っていた。
五郎蔵の旧主巴之丞は、昔愛した時鳥に瓜二つの傾城逢州に入れあげて廓に通いつめて金に窮する有様。五郎蔵はその窮状を救うために皐月を女郎奉公に出していた。今では傾城となっている皐月に土右衛門が身請けをするから二百両の手切金で五郎蔵に去り状を書けと迫る。五郎蔵が金策に困っているのを助けるため、皐月は土右衛門の申し出を受けることにする。折りしも皐月に金の工面を頼みにきた五郎蔵に、皆の前で愛想づかしをするよう強要。皐月の真意を知らない五郎蔵は真に受けて逆上、捨て台詞を残して去る。土右衛門が皐月を連れ帰ろうとすると皐月は癪を起こしてしまう。せっかく身請けしたのにかっこがつかないと渋る土右衛門に逢州が皐月の打掛をして身替りをつとめてくれることになった。
外では五郎蔵が行灯を消して土右衛門と皐月に意趣返しをしようと待ち伏せる。暗がりの中で皐月の内掛けをめがけての殺しの場。刺し殺してしまったのは逢州だったことに驚く五郎蔵。土右衛門も応戦してきて死闘になるが、今回は「本日昼の部はこれぎり~」となって仁左衛門、左團次が客席に手をついての口上となって幕。

「五條坂仲之町の場」。冒頭の両花道を使ったベテラン勢の渡り台詞が歌舞伎座中に響き渡るのを初体験。3階B席からは先頭の仁左衛門・左團次の頭が見えるくらいだが、耳で黙阿弥の七五調の心地よさを堪能。
舞台を歩く仁左衛門の男伊達姿。これ以上背が高かったらバランスがくずれてしまうという絶妙のカッコよさ!(蜷川「近松心中物語」の阿部寛の忠兵衛は腰が高すぎて着流しが似合わないことこのうえなかった)
舞台での丁々発止も仁左衛門・左團次だと見ごたえ十分。ここの五郎蔵は文句のつけようのないカッコよさだ。菊五郎の留め男。昼の部はここだけだが、贅沢な配役だ。
福助の皐月はあでやかだった。夫五郎蔵のためのお金欲しさで心ならずの愛想づかしのせつなさが観ている方の心を掴む。ところが五郎蔵が真に受けた逆上ぶりはよく考えるとあまりに愚かだ。必要なのは二百両、手切れ金も二百両というあたりで気がついてもよさそうなのに、カッコだけの頭の悪い男じゃないか、それで皐月と土右衛門を闇討ちにしようとするのだから短気な卑怯者だと思ってしまう。「晦日に月の出る廓も、闇があるから覚えていろ」という捨て台詞もよく考えると情けない。

しかしながら、五郎蔵の行いが馬鹿っぽいほど、間に入る逢州の優しさが際立ってくる。孝太郎の逢州は地味な感じではあるが、巴之丞が通いつめるのもこの性格のよさに惚れこんでいるのじゃないだろうかと思えてしまう。皐月のつらい気持ちも分かり、大事なお客の土右衛門も立てるという身替りが悲劇を生んでしまうというのがせつないばかり。暗闇の中で傾城の名がわかる提灯と内掛けを目印にして斬りつける五郎蔵。内掛けをうまく使っての立回りが綺麗でいい。殺しの場のかどかどの極まりを仁左衛門・孝太郎がきっちり見せてくれて堪能。親子での共演を嬉しく思ってしまった(こういう絡みは初見なのだ)。
この後に滅多に上演されない「大詰 五郎蔵内腹切の場」というのがあって、五郎蔵と皐月がともに死んでいくらしい。そこまであると前の場で地に落ちた五郎蔵の人物的評価も取り戻すことができるというものだ。
その場と「時鳥殺し」の場面もあるバージョンの上演をなるべく早く観たい。ネット検索で調べると「時鳥殺し」 では仁左衛門が時鳥を殺す百合の方をやったのがよかったらしい。「先代萩」の八汐と勝元の二役が本当に素晴らしかったので、「御所五郎蔵」でもそういう二役を観たいという気持ちが強まった。

写真は歌舞伎座の正面に上がった顔見世興行の櫓。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」
11/25千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」


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4 コメント

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百合の方 (みゆみゆ)
2007-11-23 21:16:34
4年前の通しの仁左衛門さんの百合の方・・・すごかったですよ~!!
その年の茶話会でも「また見たい!」という声には
「もう、いいかな・・・・」とおっしゃっていましたが(苦笑)また見たいですね。
五郎蔵もかっこいいのですけど百合の方も見たいです(^^;
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★みゆみゆ様 (ぴかちゅう)
2007-11-23 22:00:59
TB&コメント有難うございますm(_ _)m
仁左衛門丈の「御所五郎蔵」は初めてでした。仲之町の場のカッコよさったらないですね。左團次さんとのダブル左コンビは最強って感じです。子分と門弟たちもいいし、渡り台詞に聞き惚れました。やっぱり浅草のレベルとは大違いですねぇ。
愛想づかしと逢州殺しのところの写真を2枚買ってしまいました。後者はおみ足の写り具合で決めました(^^ゞ4年前の通し上演はご覧になったとのことですが、評判の舞台だったようですね。まだその頃は歌舞伎を本格的に観る前だったので羨ましいです。
なるべく早く同様の通しを観てみたいです。
顔見世興行昼の部は「吃又」もよかったです。鼓のご指摘はなぁるほどと思いました。
ただ昼の部も詰め込みすぎで「五郎蔵」が半端になってしまったのかぁと推測。「素襖落」いらなかったというのが私の正直な気持ちです。その分、せめて「五郎蔵切腹」の場を入れてくれるとドラマを観た満足感があったと思いますが、大看板の見せ場をつくらねばならぬという要素もあり、そのへんがなかなか難しいのでしょうね。
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♪♪♪ (かしまし娘)
2007-12-05 13:57:13
ぴかちゅう様、まいど!
五郎蔵と言えば…大滝の五郎蔵か!『鬼平犯科帳』か!吉右衛門か!モードになってしまいそうですが(笑)
「こりゃ、…逢州さんだ!」この台詞が大好きなのです♪
玉を転がすようなイイ声で仁左衛門が言ってくれましたなぁ。満足満足。
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★かしまし娘さま (ぴかちゅう)
2007-12-05 21:00:37
>玉を転がすようなイイ声で仁左衛門......玉を転がす声の時もドスをきかせる低音の時も仁左衛門の台詞の音遣いは本当に素晴らしいです。今回はカッコいいけれど五郎蔵はやっぱりお馬鹿な男だと思えてしまう場面しかなかったのが不満でした。
「殺しをするなら仁左衛門」っていうのもどちらかで読んでとっても納得してしまいました。まぁ今回も「逢州殺し」で孝太郎との共演が本当によかったんですけど、やっぱり百合の方での殺しが観たい~。
(注)かしまし娘さんの記事は名前をクリックすると読んでいただけますのでご紹介m(_ _)m
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