ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/11/18 顔見世大歌舞伎昼の部②初めて泣けた「吃又」

2007-11-19 23:58:51 | 観劇

顔見世大歌舞伎昼の部は「御所五郎蔵」より前の3本はあまり気乗りしなかった。またかの「吃又(どもまた)は今回で3回目。最初は2004年6月歌舞伎座の吉右衛門・雀右衛門で観たが面白いと思えず。2回目は三津五郎・時蔵で観てようやく作品を味わえた。そして今回、初めて泣けた。
三津五郎・時蔵で観た時の感想はこちら
【傾城反魂香 土佐将監閑居の場】
今回の配役は以下の通り。
浮世又平:吉右衛門 又平女房おとく:芝雀
土佐将監:歌六 将監北の方:吉之丞
土佐修理之助:錦之助 狩野雅楽之助:歌昇
配役表を直前に確認。実力派揃い踏みのメンバーだったので気を取り直してみたら、いつもはつまらない前半も面白いではないか。

錦之助の修理之助は若手がやるのと段違いのよさ。将監閑居の家の裏に虎を追い込んだ百姓たちを野盗と見込んでのやりとりに、きちんとした武士の気構えや身のこなしがある。事情を把握して師匠へ取次ぎ、歌六の将監との台詞のやりとりがまたきびきびしていていい。錦之助の修理之助には虎を描き消す力があるという説得力があり、それによって土佐の苗字を許されるにふさわしかった。吉之丞の将監北の方が「でかしゃった、でかしゃった」というと観ているこちらまで修理之助に素直に「よかったねぇ」と思ってしまう。この奇蹟の場面でこんなに納得したのは初めてだった。

そこに又平・おとく夫婦が土佐の苗字を許してもらえるよう願い出るためにやってくるのである。前半の奇蹟を重く受け止めると、将監が又平に苗字を許さないのは結局は吃りの又平を軽くみているからだという私のこれまでの見方のウエイトがガグと変わった。修理之助の奇蹟を起こした力と同等の力を示さなければ、師匠としては苗字を許してやりたくても許せないというのも無理がないと思えた。
これまでおとくの台詞でよく理解できていなかったのだが、この夫婦は前に何度も北の方にはお願いに上がっていたこともわかったことも大きい。北の方もとりなしたくてもなかなかできなかったのだろう。だから今回の夫婦の将監への直訴を見守る北の方のせつなさもよくわかる。
又平はうまくしゃべれないので妻のおとくに代りに嘆願させる。師匠の心は動かない。将監の主家の姫が敵方に監禁されたことの報告に雅楽之助が駆けつける。絵で認められないなら姫を取り戻すための主人の使いに立って認められようとする又平だが、吃りでは役に立たないといわれて絶望。
自分でも吃りまくりながらも必死の嘆願。ここの台詞をこれまでは必死に聞き取ろうとしていた私だが、ここは「師匠の苗字が継ぎた~い」というあたりだけ聞き取れればいいのだと今回わりきれてしまったら全く気にならなくてその必死な思いにスッと寄り添えた。そして言葉がすんなり出てこない自分の喉をかきむしったり、役に立たない口に指をつっこんで嘆く姿に思わず涙腺がゆるんできた。

望みを絶たれて思いつめて死のうとするのも死後に苗字を追贈してもらうことに望みをかけているという切なさ。一人切腹しようとする夫に自分も一緒に死ぬから、今生の名残りに師匠の庭の石の手水鉢に絵を描くようにと説得するおとく。描き終えても筆を握った掌が開かないほどに一心に描く又平。又平の放心の表情の吉右衛門の掌を芝雀のおとくが開いてやって両手を握り、「手も二本、指も十本揃いしに・・・・・・」の名台詞に泣かされる!この脚本の素晴らしさにあらためて唸る。芝居の密度も高い!
水杯を交わすためにおとくが手水鉢に近づいて初めて奇蹟に気がついた。「かか、ぬ、抜けた!」の声ですぐに将監が出てきて中国の同様の故事来歴をひいて又平の起こした奇蹟を認め、土佐の苗字を許す歌六の間合いのよさ。「でかしゃった、でかしゃった」と言いながら拝領をゆるされた衣裳と大小を盆に載せて渡す吉之丞の北の方も本当に嬉しそうでここも泣けた(この場面の吉之丞の写真を買ってしまったくらい!)
身体中から喜びをあふれさせて着替える又平。さきほどの悲嘆にくれた表情から愛嬌あふれる笑顔に一転するこの魅力。破顔一笑の吉右衛門の魅力が炸裂する。これにやられるのだ。
修理之助に続いて姫を取り戻すための使いに立つことも命じられるが、口上はいえるのか。実は謡を習っていて、その節に載せれば吃らないから大丈夫ということで謡い舞ってみせるところも吉右衛門の見せ場だ。

この座組みのよさに「吃又」で初めて心を揺さぶられてしまった。こういうことがあるから歌舞伎の魅力の深みにハマっていくのだ。

写真は顔見世興行の櫓の上がった歌舞伎座正面。晴天の青空をバックに青い櫓が美しい。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」
11/25千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」


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5 コメント

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スレ違いで (くーみん)
2007-11-20 17:15:23
申し訳ありません。
今日何気に東京12CHを見たら、お昼放映の「台忠臣蔵」で、菊パパが赤穂のお殿様を演じていました。
菊五郎が一番美しかったころだと思います。

みんな、若かった。そしてきれいでした・・・。
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素晴らしかった吃又 (六条亭)
2007-11-20 22:45:06
こん♪♪は。

今回の『傾城反魂香』は、吉右衛門さんと芝雀さんの組み合わせもよく、加えて共演者も皆さん素晴らしい出来で、とてもよかったですね。泣かされた、というご感想もよく分かります。

TBをうちました。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-11-20 23:43:51
★くーみん様
>みんな、若かった。そしてきれいでした・・・。
.......その頃に歌舞伎を観ていなかったのが残念です。いろいろな資料を買ったり図書館で借りたりして見ていますが、写真だけでも溜息が出ることも少なくありません。現在のベテランの芸の花と今の若手の時分の花の両方を楽しませていただくことを有難いと思うことにします。
★六条亭さま
一番初めに見たのが吉右衛門の又平だったのですが、初回はあまりいいと思えませんでした。2回目の今回はバランスのいい座組みだったせいか、芝居が濃く、初めて泣かされました。
歌六・吉之丞の将監夫妻、錦之助の修理之助で回す前半からぐっと引き込まれ、そこに吉右衛門・芝雀ときてぐい~っともっていかれました。何度も観ていい座組みの舞台に出会えてまたまた歌舞伎の深みにハマってしまうようです。
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ズデギでした~♪ (かしまし娘)
2007-12-04 11:45:58
ぴかちゅう様、まいど!
吉右衛門&芝雀にノックアウト!!新カップル誕生だ~!!私からゴールドメダルを贈呈だ~!!
丸本歌舞伎の醍醐味もワンサと感じられて嬉しかったです♪
夫婦愛が、ジンワリ内側から沁みこんでくる。
そんな2人の、嫌味のない素朴な味が忘れられない…。
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★かしまし娘さま (ぴかちゅう)
2007-12-04 23:28:10
今回で3回目の「吃又」。前半はいっつもタルかったんですが、将監に歌六、北の方に吉之丞、修理之助に錦之助が揃ったら、これまでと全く違ってしまってビックリしました。錦ちゃんの修理之助がいいし、それを褒める師匠夫婦がまたいい!
それと同等の力を見せないといけないから又平がいくら情に訴えてもダメなんだということが前半がしっかりしたことでドラマがスケールアップ。
>吉右衛門&芝雀にノックアウト!!......って私もそうなりましたよ。テンポが出て文楽っぽくなったというご指摘もうなづけました。
12月国立劇場も吉右衛門や萬屋一門に芝雀が揃うので楽しみな私です。
(注)かしまし娘さんの記事は名前をクリックすると読んでいただけますのでご紹介m(_ _)m
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