ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/10/14 歌舞伎座十月昼の部②藤十郎の「恋飛脚大和往来」

2007-11-01 23:22:07 | 観劇

前回、「封印切」と「新口村」を続けて上演したのを観たのは2005年6月の歌舞伎座だった(→その時の記事はこちら)。藤十郎型の忠兵衛は浅草で亀治郎のを観たことがあるが、ご本人の忠兵衛は初めて。
【恋飛脚大和往来 封印切・新口村】
あらすじは→前回の記事を参照。
今回の配役は以下の通り。
亀屋忠兵衛:藤十郎 傾城梅川:時蔵
丹波屋八右衛門:三津五郎
槌屋治右衛門:歌六 井筒屋おえん:秀太郎
忠三郎女房:竹三郎 孫右衛門:我當

「封印切」
藤十郎のつっころばしはさすがだ。「梶原源太はわしかしらんて」とひとりごちるあたりも本当に自然。秀太郎のおえんとの上方言葉のやりとりなど本当に聞き惚れてしまう。こうして本家の藤十郎の忠兵衛を見てみると亀治郎がずいぶんと頑張ってきちんと身につけたことがわかった。藤十郎の台詞をきいて亀治郎の声を思い出したりもしていた。藤十郎がけっこう早口でしゃべるところは聞き取りにくいが、まぁ雰囲気で聞いてしまうので気にならない。
おえんは梅川との仲も応援してくれていて、揚茶屋の裏手から離れ座敷での逢瀬を手引きしてくれる。板塀の外よりもやはり離れ座敷の方がいい。ここでの忠兵衛と梅川がじゃらじゃらする場面もいい感じ。さすがに時蔵の梅川はいい女っぷり。これまで観てきたコンビは若手だったのでベテランどうしのじゃらつきは観ている方もとろけそうだ。
            
おえんは今日はじゃらじゃらするなと言ったのに、やっぱりしているといいながら、ふたりを表の部屋に通す。その後で自分と槌屋治右衛門との仲を思い出して「てれくさ」。前回観た時よりもここはボソッとしゃべった。濃厚な忠兵衛・梅川コンビの後なのでこのくらいが渋めでよかった。(治右衛門は通ってくる関係と今回あらためて気づいた。)

歌六の槌屋治右衛門は初役という。曽祖父は関西の役者だったはずだが東京に一門が移ってしまうと上方言葉の継承も絶えてしまうのは海外の三世と同様なのだろう。しかし歌六はこの役も気骨のある女郎屋の主人を堂々とやってくれる。これならおえんが惚れているのも無理はないといういい男っぷり。(歌六のところが何故か消えていたので追記!)
同じく初役の三津五郎の丹波屋八右衛門。祖父の当たり役らしい。藤十郎を相手に上方言葉を頑張っていた。憎憎しさも頑張って出していた。忠兵衛を挑発して追い込んでいく嫌らしさ。近松門左衛門の原作よりも改作の方が八右衛門をはっきりと敵役にしたらしい。八右衛門が憎らしいほど忠兵衛に観ている方も肩入れしたくなる。おえんが八右衛門に嫌味をとばすと溜飲が下がるのは、観ている方の代弁者のように感じてしまうからだろう。秀太郎のおえんはやっぱり大好きだ!

藤十郎の忠兵衛は気がついたら封印が切れていたという演じ方。それに気づいてから後戻りできないと腹を決めて全ての封印を切るのだ。思わぬ展開に驚きながらも梅川は身請けが決まったことの嬉しさが少しずつ湧いてきた様子。二人きりになって初めて忠兵衛から真実を聞かされて一緒に死んでくれと言われると、また驚きながらも喜んで一緒に死ぬという。心中は世間のしがらみから逃れて愛を成就する手段としてはよくあることと捉えられていたのだろうと思えた。
花道の引っ込みは梅川を先に行かせて、忠兵衛が最後に一人で入るのが藤十郎の型。座長の役者ぶりを見せるには一人で登場して一人で引っ込む方がいいのだろう。
「新口村」
糸立てに一緒にくるまっていた忠兵衛・梅川が揃いの比翼の黒い紋付で登場する場面は本当に美しい。我當の孫右衛門は初めて見るが、これまで見た仁左衛門よりもかなり素朴な感じ。前半の忠兵衛と孫右衛門の二役で見せる演出よりもちゃんと2人で演じる方がドラマとしては深く味わえる。
梅川のクドキのところの義太夫が聞き取れないのがかなり悔しい。次回は聞き取れるように予習しよう。孫右衛門に目隠しをさせて忠兵衛の手をとらせ、さりげなく目隠しをはずして父子の対面をさせる梅川の機転が嬉しい。自分の目の前で捉えられる姿を見たくない父は路銀を渡して落ち延びさせる。その際も遠見の子役よりもきちんとした役者で見せる方が泣ける。降りしきる雪の中に小さくなっていくふたりを見送る孫右衛門。この場面が雪というのが本当に歌舞伎らしく美しく哀しくて素晴らしい。

藤十郎襲名後、歌舞伎座では初の上演ということだった。しかし予想よりも楽しめなかったのは何故だろう。風邪をひいて体調がよくなかったせいもあり、睡魔がちょいちょいやってきてしまった。何回も観ての「慣れ」もあるだろう。後はやはり義太夫が聞き取れるようになることが大事なような気がする。それには文楽で観るのが一番いいと思うのだが、東京での上演が待ちどおしい。

写真は今回公演のための「恋飛脚大和往来」のポスターからアップで撮影。
10/14昼の部①「赤い陣羽織」
10/14昼の部③玉三郎×愛之助の「羽衣」