ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/02/24 『紅天女』でお能デビューの感想+狂言デビュー宣言

2006-03-01 23:58:34 | 観劇
2005年度NHK教育TVの『日本の伝統芸能』をビデオに録画しながら「能・狂言」も含めて一通り見て「文楽」とともに未見だったもの2分野へのデビューを決意。先に「文楽デビュー」を昨年9月国立劇場小劇場でさせていただき(感想アップさぼってて恐縮)、お能漫画「花よりも花の如く」なども読みながら「お能デビュー」のきっかけを探っていた。
お能漫画「花よりも花の如く」の感想の記事はこちら
そして今回ついに国立能楽堂特別企画公演『紅天女』でお茶屋娘さんとともに「お能デビュー」!

昨年の夏にお茶屋娘さんが持っていた漫画「ガラスの仮面」文庫版全巻をお借りして一気に通読。この中に登場する劇中劇『紅天女』が能舞台化されるという情報をマークしてきてしっかりチケットを確保。図書館で小学館ショトルシリーズの「能楽入門①初めての能・狂言」を借りて舞型の表現なども予習して当日を迎えた。
漫画「ガラスの仮面」通読の記事はこちら

雨の中を千駄ヶ谷の国立能楽堂へ。珍しく早く到着したのは資料館なども見たかったからだが、入り口が別で入りにくかったのと余裕があまりなくて見送り。プログラムを買って詞章に目を通す時間にあてた。脚本は宝塚理事長の植田紳璽で、やはりそつなくまとめられている。導入部に女優・岩崎加根子により原作の登場人物・月影千草による「紅天女」紹介と紅天女のめざめ部分の朗読があるようで新作能というのはここまで柔軟性があるものなのかと驚いた。

開演間際に見所(観客席)へ。先日『マクベス』を観た梅若能楽学院会館の能楽堂よりもかなり大きいことを実感。今回は正面の右端席でハシガカリが遠い。次回から脇正面席にしようとまず思う。
始まって冒頭の岩崎加根子の朗読が能楽堂の雰囲気に溶けこんでいて堂々としていて素晴らしかった。彼女がキザハシから舞台を降りて退場していよいよ本編。まず狂言方によって世の中の乱れを嘆く場面、続いて伝説の紅天女を求める仏師が紅の谷にまぎれこみ里の女と出合ってタイムスリップ。
いよいよ主役の阿古夜と仏師一真との話になっていく。嵐に遭難した一真は阿古夜に助けられ、「自分の魂のかたわれを乞うのが恋」というほどに愛し合うふたり。不思議な通力で里を守っていた阿古夜は、恋すると通力を失っていく。里長はふたりを引き離す。遭難で記憶を失っていた一真は里を襲った戦の殺戮に自分の使命を思い出す。2つの朝廷に分かれて争う戦乱や天変地異で苦しむ世に平和をもたらすために京の帝の命により千年の梅の古木を伐って天女の像を彫り上げることを。しかし紅の谷に見つけたその梅の古木こそ阿古夜の霊の宿る神木であった。神木の中から阿古夜の声は「我を伐りたまえ」という。愛する阿古夜の命を奪うことであり一真は悩むが、阿古夜の「我が心は天女の像となりて。永久に汝と共に生きる」という言葉に意を決して天女を彫り上げる。その天女の舞の中で元の仏師が紅の夢から醒めるというお話だった。(なぜ紅天女の像のご利益が切れて再び冒頭のような乱れた世の中になっているのだろうとか矛盾に思うこともあるが、まあいいことにしておこう。)

阿古夜と紅天女を演じたシテ方の梅若六郎は声がなかなかよかった。体格も太めの方だが衣装で隠れるし、面の周りにはみ出しているお顔もそんなに気にならなかった。仏師と一真を演じたワキ方の福王和幸は背も高く、若くて二枚目なので直面で演じるのにぴったり。
アイ狂言の東の者は茂山七五三、西の者は茂山千三郎。2つの時代に登場し、衣装の違いで演じ分ける。このふたりの会話で国境を隔ててそれぞれの国が地震や津波、戦が起こっても当初は自分の国のことではないと言い放っているが、そのうちに協力せざるをえなくなるという皮肉なエピソードを狂言で語る。ここの部分が同じ台詞のリフレイン効果もあって面白かった。
お能の部分は主役ふたりの台詞はまあまあ聞き取れたが、地謡の部分がやはり慣れないので聞き取りにくかった。文楽の電光掲示板の字幕がここにも欲しいと思ってしまった。囃子方の大鼓と小鼓がずらして1回打ったらよくいう「カッ、ポーン」になっているのだとあらためて気づく。そこに笛が乗っていく音のハーモニーが美しかった。
正直言うと寝不足で観たので半分夢ごこち状態だったので、朗読の後は夢を見ているような気分だった。心地よかったが興奮まではしなかった。地謡もコーラスだし、圧倒的な独唱を聞くのが一番好きなので、そういうものがないお能で高揚するということが私にはできないかもしれないなというのが印象として残った。

プログラムを読んだ後、見所の近くで『新作能「紅天女」の世界』というガイドブックを売っているコーナーを発見。「サイン本あと2冊ですよ」の声につられて近寄ったら目の前で一冊売れた。ラスト一冊買わないわけにいかない状態で購入。原作者・美内すずえのサインだった。詞章がこちらにも載っていて、しまった、だぶった!と思った。薄暗い見所で舞台を見ながらチラチラ目を通していたが、変更がかかっているようだった。終了後に確認するとやはり本の中に掲載されていたのは途中稿。新作能はこういう試行錯誤の中で産まれてくるのだと実感した次第。

『新作能「紅天女」の世界』の詳細はこちら
梅若六郎と美内すずえの対談が面白く、特に六郎氏の以下の話が興味深かった。
「古典というのは完成されている作品だから.....作品でもってしまう部分があるんです。能というのはとにかく動きを極限まで減らしますでしょう。そうすると余分なことをしなければそれがよく見えてしまうことがあるんです。...本当は余分なことをたくさんして、そこから少しずつ贅肉を落としていかなくてはいけない。それには新作が一番なんです。」

なあるほど!!新作能に熱心に取り組んでいる六郎氏の問題意識がよくわかった。今後、古典作品の舞台も観てみたいが、新作も重視していく姿勢を私も持っていこうと思った。
そして今回私がお能に『紅天女』から入ったということは、歌舞伎に『NINAGAWA十二夜』や『野田版・鼠小僧』から入る人と同じようなものだと思いいたった。終演後、お能では拍手をしないことがほとんどという話をきいていたのだが、この日の終演後はかなりの観客が拍手をしていた。私と同じようなお能入門者が多かったのだろう。入門書「初めての能・狂言」には拍手をしてはいけないという決まりがあるわけではないので、観客自ら心の赴くままにすればいいと書いてあった。ホント、それでいいのだと思った。(そんなに高揚しなかった私はほとんど拍手しなかったのだが、それもまたアリということで)

次に観る機会があれば、古典作品で乱拍子が入るものが観てみたい。鬼に変化する作品がいいかなあ。
写真は国立能楽堂のサイトより、試演会の時の画像。
追記
TV番組「ザ・ノンフィクション 茂山家 笑いの秘密 新京都ものがたり」をビデオで見て、狂言方の茂山七五三と茂山千三郎がご兄弟だとやっとわかった。人間国宝茂山千作の子・孫へと続く茂山家の歴史とその中でのひとりひとりがプレッシャーとたたかいながら乗り越えていく様子にうなった。千作さんがお元気なうちに是非舞台を観なくてはと強く思った次第。次は狂言デビューしなくちゃ!


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おつかれ! (お茶屋娘)
2006-03-03 06:50:33
独唱が好きなぴかさんに対して、男声合唱が好きなワタクシには、相当、心地よかったです。ワタクシ的には文楽よりも、お能だな。

こういう、静謐で引き締まった空間にいる、ということが好きなのね。



福王さん、今風に言うと、「萌え~」でございます(爆)。プロフィールなんか調べてしまいました。
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こんにちは (みゆみゆ)
2006-03-03 11:53:29
六郎師は、分かりやすい能だと思います。ちなみに私は晋矢さんファンです。福王さんも人気ですよね。謡も新作能ですと謡が分かりませんよね。古典ですと、事前に謡本などで予習できるのですが・・・。次回、もし古典をご覧頂ける機会がありましたら、理屈とか関係なくぜひ「考えるより感じて」みてください(^^)面白いものですから。

乱拍子のお能ですと・・・『道成寺』でしょうか?こちらは歌舞伎の舞踊のとは違って、長いです。ですが、心地良い緊張感ですよ(^^)



たまに独吟というスタイルもありますよ、こちらはお能の一部を謡います。で、謡の発表会とかで多いのですけどね。

私は明日、発表で、舞囃子『田村』の小鼓を打たせて頂きます(^^;
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コメント、TBありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-03-04 14:17:21
★お茶屋娘さま

うちの高校、能楽部もあって、部員たちは能楽堂によく通っていたようです。同じクラスに能楽部の子がいて、能楽部に入らない?なんて周りの子に声をかけてました。文化祭で能楽部はいつも囃子方はなしで何人かの謡だけで♪「月宮殿の~」♪とやる中で直面で着物袴姿の子が扇を持って舞っていたのを思い出します。そうそう長唄部もあって、三味線の上手な先輩がいたっけな。長い髪で眼鏡をかけてクールな顔して弾いていた。私は合唱の方の音楽部に入っていたけど半年でやめちゃって、東京宝塚劇場に通いつつ生徒会本部やっていた(笑)ああ、青春時代のなつかしいこと!

★みゆみゆ様

古典作品のお能もそのうちデビューしたいです。やはり『道成寺』あたりかな?TVで観世清和さんが鐘入りするあたりをチラっと見ただけでぐぐっとひきこまれましたから。入門書に載っていた酒呑童子の出る『大江山』あたりも面白そうな気がしてます。小鼓をずっとお稽古されてるんですよね。発表会のご成功をお祈りしています。

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TB成功~! (かしまし娘)
2006-03-06 09:29:04
まいど!

TB成功しました~。ホッとした~(笑)



能の新作の批評は手厳しかったですね。

歌舞伎の新作もこれくらい辛らつな批評家の批評があってイイと思いました。



私は去年、演劇「海神別荘」を観た時に、

「今まで行けば爆睡だった能にもチャレンジしてみよ~」と心を決めて行ったのです。

「紅天女」を観てこれからも、行ってみたくなりました(^O^)



「ガイドブック」はサイン本だったのですね。悔しい~(>_<)

私は発売日にジュンク堂新宿店に行って、係員に探してもらったのですが、えらく時間がかかり、グッタリしましたよ。



「茂山家・笑いの秘密」は凄かったですね!

千作爺ちゃんは、「これで最期~最期~」って言いながら、ズ~ッと生きている凄い人です!ガハハ。

1度ナマで観てみて下さい。笑いころげる事間違いなし!
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続・コメント、TBありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-03-06 23:16:57
★かしまし娘さま

TBありがとうございますm(_ _)mさっそくTB返しということで今日も何回かトライしたのですが、やっぱりダメでございます。その代わりにURLをつけてコメント返ししておきました。

私もお能は初心者未満でございます。それでついフラフラとガイドブック売り場に行ったらラスト1冊のサイン本GETということになった次第です。

「茂山家」もビデオを借りて観ました。本当に伝統を継ぐプレッシャーって大変そう。それでも自分も三代目の人間国宝になりたいって立ち直ったご当主に感動しました。その勢いで私も狂言デビュー、宣言しました~。

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なんやかやとすみません (かしまし娘)
2006-03-07 09:48:11
まいど!

なんやかやと、TB関連ですみませんです~。



「狂言」

私は断然”京都大蔵流”贔屓なんですが、

関東人に聞くと「濃すぎる」との事。

関西育ちとして納得しました。ガハハ。

その人は野村まんさい等の”和泉流”贔屓。

色々と試してみて下さいネ!

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はじめまして (ツチ子大夫)
2006-03-11 23:50:49
かしまし娘さんのブログからまいりました。

ツチ子大夫と申します。よろしくお願いいたします!



「紅天女」ガイド本、ワタシも買いましたよ~

ぴかちゅうさんも上で述べられている六郎氏の話、

大いに共感しました。

再演を重ねるうちに、どんどん余分なものがそぎ落とされていくのでしょうね。

今後、進化する「紅天女」を観てみたいです!
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続続・コメント、TBありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-03-12 00:28:18
★かしまし娘さま

京都大蔵流の狂言、私は「濃い~の」が好きなのできっと気に入ると思います。

>茂山千作爺チャンは「これで最期、最期」と言いながら、まだまだ演ってはります(笑)

ちゃんと観なくっちゃと決意しております!

★ツチ子大夫さま

かしまし娘さんの文楽の記事のコメント欄などで拝見し、お園さまとおふたりで書かれているブログですごいなあと思っておりました。TBありがとうございました。ぜひ後編もTBしてくださいませm(_ _)m

お能も文楽も両方とも初心者なので今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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やっと・・・ (みゆみゆ)
2008-03-31 18:04:33
こんにちは、
私はやっと見ることができました。
どちらかというと私は新作能は苦手なんですが(爆)
新作にしろ、古典にしろ、ある程度筋を分かっているのといないのとでは楽しみ方もまた違ってくるのかな?と思います、
「ガラスの仮面」を知らないで見ましたが、事前にガイドブック(ぴかちゅうさんがもっていらっしゃるのと同じかと・・)を購入してチェックしてなんとかお話についていけました。

あと、TBがきていませんでした。(最近そういうのがまた多いです^^;)
こちらからはTB送信できましたので、またお願いします。
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★みゆみゆ様 (ぴかちゅう)
2008-04-02 00:19:52
長泉でのレポを有難うございます。その時のNHK撮影、5月2日オンエア情報も感謝です。
TBは今日もやってみましたがうまくいきません。「幸福のスイッチ」は一回で成功したのに、記事による相性とかってあるのでしょうか。名前欄をクリックしていただければ該当記事が出るようにしておいたので、それでおゆるしくださいね(^^ゞ
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