ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/11/25 顔見世大歌舞伎千穐楽夜の部②「山科閑居」に満足

2007-11-28 23:38:49 | 観劇

「仮名手本忠臣蔵」は昨年9月の文楽公演と今年2月の歌舞伎座での通し上演を観た。歌舞伎の通しとはいえ九段目は省かれていたので今回が初めて。楽しみ楽しみ~。
2月の「忠臣蔵」通し上演の記事はこちら
昨年9月の文楽公演第三部の記事はこちら
【仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居】
歌舞伎の九段目では文楽で観た前半の「雪転しの段」はなし。雪の中、由良之助の閑居に加古川本蔵の後妻の戸無瀬が小浪を許婚の力弥に嫁がせるためにやってくるところから始まる。あらすじは省略。
今回の配役は以下の通り。
戸無瀬:芝翫(初役!)
加古川本蔵:幸四郎(初役) 小浪:菊之助
大星由良之助:吉右衛門(初役!)
お石:魁春(初役) 力弥:染五郎(初役)
渡辺保氏の劇評を読んで、主な配役では菊之助をのぞいて初役ばかりということに驚く。特に芝翫はお石が持ち役で戸無瀬をこの年で初役というのがすごいと思った。渡辺氏は久々に初日を待ち兼ねたという。また吉右衛門の由良之助は九段目の由良之助はこれまでやっていないという。これだけの大看板役者が60歳すぎて初役をつとめることもあるという歌舞伎というのはなんて奥深いのだろうとそれだけで感心してしまう。

前半は女のドラマ。本蔵の妻・戸無瀬は小浪とはなさぬ仲であるだけに母娘の信頼の強さはより強調される(シネマ歌舞伎にむけて「文七元結」の文七の妻と娘を義理の仲にしたのも同様の効果をねらったのだろう)。
芝翫の戸無瀬はビジュアル的には確かに年を感じてしまうがあふれる情愛がそれを凌駕する。ビジュアルは菊之助の小浪に任せよう。綿帽子をとった時に見入ってしまう。とにかく美しくて力弥への一途な想いの強さがストレートに伝わってくる。芝翫の戸無瀬はその小浪をいきなり花嫁衣裳で嫁入り行列を直前に仕立てて自信を持って許婚宅に届けにきたという感じ。だからお石に輿入れを拒否されるとかなりオーバーに驚くのだろう。ここに渡辺氏は疑問をなげかけていたが、確かに二つの家の関係の大きな変化は奥向きにいる人間だって重々承知の上なのだから、「やっぱりそうきたか」くらいの受けとめの方が自然だと思えた。その後、二つの家の石高の変化のやりとりを経て、お石の本音が出てくるわけだ。
それ以降の戸無瀬の心持の変化はたっぷりの芝居で見せてくれる。小浪に他家に嫁ぐくらいなら殺してくれと懇願され、戸無瀬は迷いながらも覚悟を固めていく。そなただけを死なせはしない、後から追っていくという。
外からは虚無僧の吹く「鶴の巣篭」の曲が聞こえ、「鳥類でさえ親子の情は」というような義太夫に乗って階段のところでのさまざまな極まりのポーズが連続して極まっていくのも形だけでなく心持まで伝わってくるのが素晴らしい。ひねるポーズもきっちりしていてさすがに芝翫だと思わされた(2月の八段目の道行の舞踊の素晴らしさも思い出す。すっかり戸無瀬になりきって芝翫が泣いているのでちょっと驚く。すすり上げながらの台詞になっているし涙も光っている。こんなに濃い芝居を見せてくれる人だったのだとあらためて見直してしまった!
小浪の白い打掛を四角に広げた上に小浪を座らせているのを見て着物ってこうなるんだということも発見。そんなところも感心しながらドラマも追うから忙しい。

戸無瀬が婿引出に持ってきた家の重宝の刀を振り上げると、「ご無用」と留めるお石の声。奥から三方を掲げて正装したお石が出てくる。祝言を許すという言葉に母娘は喜ぶが、追いかける言葉は「婿引出に本蔵の首をここに乗せて欲しい」。魁春のお石は芝翫に習ったというが、十分堂々としている。両家の奥方どうしがしっかりと拮抗している。
その女のドラマに虚無僧が割って入ってくる。深編笠を取ると加古川本蔵その人だった。由良之介の悪口を散々言ってお石を挑発、槍を持って挑むお石を軽くあしらってしまう。飛び出てきた力弥が母の代りに槍をふるうと本蔵は槍先を自分の脇腹につきたてる。
「婿力弥の手にかかり本望であろう」と由良之介が登場。出番は本当に少ないのにここから一気に男のドラマに持っていく吉右衛門の大きさを堪能する。ここまでの台詞が聞き取りにくかった幸四郎も手負いになってからの場面の声を振り絞るような台詞は別人のようにいい。この兄弟の共演は1+1=2以上になる。「アマデウス」でもサリエリのモーツァルトに対する嫉妬の感情を神への憎悪として語る台詞もよかった。こういうぎりぎりの魂の叫び的な場面は本当に幸四郎ならではの味が生きると思う。

力弥の染五郎はビジュアル的には満足だが声がもう少しなんとかならないものか。若手どうしということで菊之助と同じ舞台に立つと安定した美声の菊之助とどうしても比べてしまう。姿形はつりあうのに声がつりあわない。しかし染五郎にとっては父と叔父と一緒にいるだけでなく、初役がほとんどなのに芝居のレベルの高い舞台に一緒にいるということが大きな経験になることは間違いないだろう。

竹本も葵太夫、綾太夫と語りついで堪能。一幕だけなのに忠臣蔵の世界にぐっと入ってしまった舞台だった。こういう重厚さのある濃い芝居も大好き。この座組みで初九段目を観る事ができたというのは幸せなことだと思う。こうして義太夫狂言の魅力にハマっていく。             
大石内蔵助の山科閑居についてはこちら
写真は公式サイトより今回の公演のチラシ画像。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」


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5 コメント

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九段目デビューおめでとうございます (かしまし娘)
2007-11-29 12:50:55
ぴかちゅう様、まいど!
文楽と見比べるのも楽しいですよね。
実は、私の八段目・九段目のお気に入りは文楽だったりするんですよ。

吉右衛門が、九段目の由良之助初役!っつのにはビビビックリ。
由良之助=吉右衛門とインプットされているもんで…。
まだまだ開いてない宝の箱がある。ってことですね。歌舞伎界には…。
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Unknown (june_h)
2007-12-01 11:47:05
ぴかちゅうさま、コメントありがとうございます!ぴかちゅうさまは文楽にもお詳しいのですね!私、先日、文楽初体験しましたが(浪花鑑でした)、まだ面白さがよくわからず、不覚にも眠り込んでしまいました(^^;まだまだひよっこ。これからもよろしくお願いします♪
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-12-01 20:59:27
★かしまし娘さま
>座組によって表現する世界観が違うので、オヨヨと思ったり、アチャ~と思ったり。蓋を開けてみるまで判りませんよね。そ~いうところオモロイ♪......そういうところもだんだんわかってきて今とっても歌舞伎が面白いです。また同じ作品を文楽と歌舞伎で見比べてそれぞれの面白さを味わうのもやめられなくなってます。しばらく両方じっくり楽しもうと思ってますよ~。
今回、本当に主だった役のほとんどの方が初役だなんて信じられない~。芝翫はけっこう芝居が濃くないので期待していなかったのですが、千穐楽ではすすり泣いてらして、こっちもしっかり泣かされました。
>藤十郎戸無瀬&孝太郎小浪......ぜひ東京でもやって欲しいです。絶対行きます!!
(注)かしまし娘さんの記事は名前をクリックすると読んでいただけますのでご紹介m(_ _)m
★「ドンカンはツミである」のjune_h様
TB有難うございますm(_ _)m
>「お!これはなかなかの豪華キャストだぞ!」......同感です。こういう座組みで初九段目となったことに感謝しようと思いました。
>二人の実在の人物......イヤホンガイドでも聞きましたが、梶川与惣兵衛の名前は加古川との関連とかよそべえという名の面白さからしっかりインプットされたのですが、津和野藩主、亀井茲親の家老・多胡主水は覚えられませんでした。実際そういう殿様と家老がいたということは覚えてるのですが(^^ゞ
だからTBいただいて嬉しかったです。また五行の色に関連した衣裳色の配置図も面白いですね。次回観る時は色的にも配置を確認してみたいと思います。
>ぴかちゅうさまは文楽にもお詳しいのですね......いえいえ、一昨年の9月から観始めたので初心者です。あらかじめ話の概要を把握した上で、字幕を追っていると目と耳から入るので寝にくいのです。それでも目を開けたまま記憶が飛んでいるということもあったりします。文楽と歌舞伎で作品がかぶってくると面白さが倍増しますので、しばらく続けてみてくださいね~(^O^)/
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九段目を見て (歌舞通)
2008-08-25 12:37:09
顔見世興行での生見物、BS放送での視聴と、2度にわたって九段目を見ました。
まず配役が豪華でしたね。やはり顔見世だからでしょうか? 本業の九段目を見てからだったので、ストーリーがもう入っている前提で、すんなりと溶け込むことができました。全員素晴らしい演技を見せてくれましたが、とりわけ本蔵の幸四郎丈、由良之助の吉右衛門丈、力弥の染五郎丈は、血縁関係だけにあうんの呼吸といった見事な演技を見せてくれました。
義太夫も葵太夫氏、綾太夫氏と文句なしの語りでした。雪おろしにはじまり、途中での"ツキブシ"など、語りを聞くだけでも聞き所満載の義太夫狂言でした。今後も引き続き名舞台を鑑賞したいですね。
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★歌舞通さま (ぴかちゅう)
2008-08-28 23:35:49

ご丁寧なコメントを有難うございます。それなのにお返事がこんなに遅くなってしまって大変失礼いたしました。これに懲りませず、これからもよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
感銘を受けた舞台をBS放送でも視聴できると、また深く味わうことができたようで何よりです。私はBSも歌舞伎チャンネルも観ることができないのですが、いつかはそういう日もくるのではないかと希望を持っております(^^ゞ
文楽をあわせて観るようになってから、より義太夫狂言を楽しめるようになりました。今年の顔見世はどんな演目がかかるでしょうか。歌舞伎座の建替え前の顔見世ということになるともうあまり回数がないでしょうから一回一回を大事に観ていきたいと思っています。
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